外苑再開発問題 合意形成のあり方議論を(2024年7月4日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 明治神宮外苑の再開発計画が、7日に投開票される東京都知事選の争点になっている。

 ラグビー場や球場を建て替え、高さ200メートル級の超高層ビルを建てるため、多くの樹木が伐採されることに耳目が集まっている。

 大都市の貴重な緑地の保全や都市温暖化の抑止にかかわる大事なテーマではある。ただ、問題の核心は別にあるのではないか。

 みんなの公共空間を大きく変えてしまう話なのに、肝心の市民が合意形成の蚊帳の外に置かれてきた点だ。議論の行方を、信州からも注視したい。

 外苑は約100年前、全国の献木や献金、奉仕活動で造られた。現在、大半は民有地だが、良好な自然的景観を維持する国内初の風致地区に指定されるなど開発は厳しく制限されてきた。

 その規制を次々と解き、民間による再開発のお膳立てをしてきたのが都である。東京五輪招致を機に「世界に誇れるスポーツクラスター(集積地)」にするとし、高さ15メートルまでだった建築規制を緩め、都市計画公園内でもビルを建てられる制度を用意した。

 問題は、そうした経緯を市民につまびらかにしないで進めたことだ。手続き上、説明会は何度かあったが、積極的に周知し、市民参加を促した形跡はない。青写真が公表されたときには計画はほぼできあがっていた。

 多くの著名人が異を唱え、反対運動に火がついた。都は手続きは適切としてきたが、事業者側に配慮の余地がないか検討を促し、現在、伐採は一時止まっている。問われるのは、合意形成をめぐる民主的プロセスの中身である。

 東京だけの話ではない。「子どもの声がうるさい」との近隣の苦情をきっかけに、街なかの青木島遊園地(公園)を廃止した長野市の対応は一例だろう。

 みんなの公共空間である。住民の知恵を集めて解決策を探るべきだったのに、一部関係者の意見を聞いて廃止を決め、混乱と市民の不信を招いた。市はプロセスの検証を始めたが、それも非公開。市民と課題を共有し、街への愛着を深められるアプローチが要る。

 松本市では、中心市街地で相次いだ商業施設の撤退表明を受け、市民有志らが街のビジョンや、あるべき開発のあり方を考える学習会を開いている。自分たちの街や公共空間をどうしたいのか。市民、有権者が主体的に考えるプロセスが大切だ。

 その場づくりを促す役割が、行政、首長に求められている。