介護保険料の上昇 持続可能な制度へ議論を(2024年6月25日『毎日新聞』-「社説」)

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体操講座で腕を上げ下げする参加者。自治体による介護予防の取り組みは、健康の維持に役立ち、介護費用の抑制効果も期待される=宮崎県都城市高城町で2021年6月、杣谷健太撮影
 介護保険は高齢化が進む社会のセーフティーネットである。制度を維持するためには、負担と給付のバランスを考えて、見直しを重ねる必要がある。
 65歳以上の高齢者の介護保険料が全国平均月6225円と過去最高を更新した。制度が始まった2000年度の2倍を超える。
 介護需要は増加が見込まれる。高齢者人口がピークに近づく40年度の保険料は月9000円を超えるとの試算もある。
 高齢者の介護保険料は、市区町村や広域連合が3年ごとに改定する。必要なサービス量の違いによって保険料には地域差が生じる。
 費用の伸びを抑えるためには介護予防の取り組みが重要だ。健康づくりを進め、サービスを必要としない人を増やすことで、保険料を抑えている自治体もある。
 ロボットやセンサーなど情報通信技術(ICT)の活用による効率化で施設などの運営コストが下がれば、費用の縮減につながる。
 事業者が収益を上げるために過剰なサービスを提供しているとの指摘もある。必要な介護を受けられないことがあってはならないが、国には適切な利用を促す対策を講じることが求められる。
 とはいえ、負担増は避けられない。逃げずに議論すべきだ。
 慢性的に不足している介護人材の待遇改善は急務だ。ただ、そのためにサービスの値段を上げれば、介護費用は増える。
 利用者の負担は原則1割だが、一定以上の所得がある場合には2~3割となる。2割負担の対象者を増やすことが検討されている。将来的には、資産も含めて負担能力を判断することも選択肢ではないか。
 財政基盤を強化するために、加入年齢を現在の40歳から引き下げるための制度改正を求める意見も出ている。
 今後の課題となるのは、保険料の地域格差だ。最高の大阪市は最低の東京都小笠原村の2・7倍に上った。大阪市が高いのは、独居高齢者が多く、介護サービスの需要が大きいからだという。
 地域格差が拡大すれば、制度への信頼が揺らぎかねない。老後の安心を支えるために、将来にわたって持続可能な仕組みを考えていかなければならない。