「帝室は政治社外のものなり」…(2024年6月25日『毎日新聞』-「余録」)

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留学時代にオックスフォード大マートンカレッジのサー・レックス・リチャーズ学長(右)とともに上皇陛下(当時皇太子)ご夫妻を案内する天皇陛下1984年3月5日撮影
 
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政府専用機でロンドン郊外のスタンステッド空港に到着された天皇、皇后両陛下=22日、ロイター
 
 「帝室は政治社外のものなり」。福沢諭吉は「帝室論」で皇室は伝統的に政治の圏外にある存在と説いた。英国流の「王は君臨すれども統治せず」に通じる
昭和天皇は皇太子時代の訪英で国王ジョージ5世から立憲君主制の考え方を聞いた。戦後「その時以来、常に立憲君主制の君主はどうなくてはならないかを考えていた」と語っている
▲元慶応義塾長の小泉信三からジョージ5世伝の原文を音読で教わり、帝室論の講義を受けられたのが上皇陛下だ。明治憲法は君主の権力が強いプロイセン(ドイツ)流を取り入れたが、皇室には英国流の考え方が引き継がれてきた
▲20代で英オックスフォード大に留学した天皇陛下は到着翌日に英議会の開会式を見学された。女王の使者が下院でいったん拒絶される儀式に王権から自立した英議会の歴史を実感したそうだ
▲英国を国賓として訪問している天皇、皇后両陛下がきょう25日、チャールズ国王主催の歓迎式典やバッキンガム宮殿での晩さん会に招かれる。突然の総選挙実施で日程への影響が心配されたが、与野党党首も晩さん会に出席予定という
▲梅雨の日本とは違い、英国の6月は温暖で国家的行事が多い。第二次大戦での反日感情が残っていた時期に上皇陛下がエリザベス女王戴冠式に招かれたのも6月だった。チャールズ国王はかつて一緒に釣りを楽しんだ天皇陛下をがん公表後初の国賓に迎えた。英文化に通じ、「テムズ川の水上交通史」にも詳しい陛下への親しみの表れに思える。