作品はイラストレーションのほか、アニメ映画、絵本、版画など多岐にわたり、いずれも美しく妖しげな唯一無二の世界観が光る。もはやアーティストの領域と言えるが、「僕は画家という意識はあんまりなくて、職業はイラストレーターで通しています」と語る宇野さん。創作への思いを尋ねた。(飯田樹与)
これまで手掛けたポスターがずらりと並ぶ個展会場=東京都新宿区の東京オペラシティアートギャラリーで
◆画家との違い
宇野さんは名古屋市内の高校を卒業後に上京し、1950年代からグラフィックデザイナーとして活躍。企業広告を数多く手がけ、日本デザインセンターなどを経て、64年には同世代の横尾忠則さんや故・和田誠さんらと東京イラストレーターズ・クラブを結成。デザインの一要素だったイラストレーションを自立させ、「イラストレーター」という職業とともに社会に浸透させた立役者でもある。
14年ぶりの大規模個展となる本展は企業広告に始まり、書籍や雑誌・新聞を飾ったイラストレーション、舞台美術など多様な仕事内容を紹介。900点を超す展示に、「依頼されていろんな仕事をやっているので、イラストレーションというカテゴリーが僕の場合、拡大していると思うんですよね」と宇野さん。自身の内面にある思想を直接表現していく画家に対し、イラストレーターは外部から依頼を受け、与えられたテーマやモチーフをもとに自らの感性で表現していくのだという。「画家だったらあんなに量産できないと思うんですよね。外からのオーダーがあるからバリエーションが生まれた」と表情を和ませた。
◆心をつかむ「笑わない女の子」
優美で妖艶な女性像が代名詞だが、その表情はにこりともせず、ただこちらをじっと見つめる。憂えているようにも、挑んでいるようにも見え、こびないまなざしにハートをつかまれる。「写真誌ではにっこりと笑う女の子の図式がよくあるけど、絵でそうするのは嫌だったんです」
子どものころから妹が買っていた少女雑誌を読み、女性を叙情的に描いた竹久夢二や中原淳一の絵に親しんでいた。男性よりも、フリルやリボンなど装飾を施しながら女性を描く方が好きだという。「男性を描く時は特定の男子像を浮かべないとあんまり絵にならないけど、女性はどこか抽象化して描いている気がしますね」と話す。
仕事場には、少女の絵をコピーした紙が何枚もあった。よく見ると、髪形や装いなどが少しずつ異なり、宇野さんの思考の過程が垣間見える。「今日の自分は、昨日とはちょっとでも違う感じに描きたい」。そう話しながら、変更したところやその意図を教えてくれる。「キザっぽくなるかもしれないけど、手が勝手に新しいイメージを作り、変容を生むところが、手で描くことの快楽につながっているんだと思います。デッサンが狂ったけど、この狂い方が良いな、とか」と、アナログならではの偶発性を楽しむ。
すでに幅広い世代にファンがいるのに、「飽きられないでいたい」という。インタビューではたびたび”変容”という言葉を口にするが、絶えず変化を求めるからこそ、私たちを夢中にさせる世界が生み出され続けるのだろう。「これまで作ったものとは少し違うオーダーをしてくれるとうれしいですね。新しいものが出てくるので」
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個展は東京都新宿区・東京オペラシティアートギャラリーで16日まで開催。月曜休館。9月14日~11月9日に愛知・刈谷市美術館に巡回する。
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