「隠れ喫煙」副知事はなぜやめられなかった? 相次ぐ自治体職員の大量処分、望ましい禁煙のカタチは(2024年6月8日『東京新聞』)

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 全面禁煙の執務室などで喫煙したとして、岐阜県の副知事ら19人が処分を受けた。2018年に改正された健康増進法によって役所の敷地内は原則禁煙となったが、職員の「隠れ喫煙」は後を絶たず、大量処分も相次ぐ。背景に何があるのか。(岸本拓也)
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記者会見で副知事らの喫煙について説明し、陳謝する岐阜県幹部ら=5日、同県庁で
◆週5~8回、執務室で加熱式タバコを吸っていた
 「業務が忙しく、喫煙場所に行く時間がなかった」
 5日付でけん責の懲戒処分を受けた岐阜県の河合孝憲副知事は、県の聞き取りにこう答えたという。
 県人事課によると、河合副知事は今年2月までの約4年間に週5~8回のペースで、個室の執務室内で煙の出ない加熱式たばこを吸っていた。今年2月に、職員の喫煙に関する通報があったことを受け、河合氏が自己申告した。
 その後の内部調査で、課長級以上の管理職10人を含む18人が県庁敷地の駐車場などで喫煙していたことも発覚。河合氏の懲戒処分と合わせ、18人を訓告や口頭注意などの処分とした。河合氏のみ懲戒としたのは、「喫煙が禁止された庁舎内であったことや、頻度、職責の重さを総合的に勘案したため」(県人事課の担当者)という。
秋田県大仙市では172人を処分
 喫煙を巡る大量処分は他の自治体でも。秋田県大仙市では、全面禁煙としている市役所の敷地内で市職員130人が日常的に喫煙していたとして、昨年3~4月に管理責任を問われた上司を含めて計172人を処分し、市長も減給となった。福井市も昨年2月、市役所地下1階の理髪室で日常的に喫煙していたとして、減給の懲戒処分となった理事級の幹部職員2人を含め、計12人を処分した。
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 望まない受動喫煙を防止する目的で改正された健康増進法によって19年7月以降、病院や学校などだけでなく、一般の人も多く立ち入る行政機関などの敷地内も原則禁煙になった。
 20年4月の全面施行で、民間の事務所や国会、裁判所なども原則禁煙となったが、専用の部屋を用意すれば屋内での喫煙は可能だ。小さな飲食店も店内喫煙が認められ、「規制が甘い」とも批判された。
◆特例で屋外に喫煙所の設置も可能
 役所の敷地内でも「明確に区画」「施設利用者が通常立ち入らない」などの条件を満たせば、特例で屋外に喫煙所を設けることもできるようになった。
 ただ、自治体によって対応はバラバラ。厚生労働省が今年5月に公表した22年度の「喫煙環境に関する実態調査」によると、敷地内を全面禁煙にしている行政機関は61.3%に上る一方で、特例の屋外喫煙所を設けるなどして一部で喫煙を容認しているところは36.7%だった。
 岐阜県や大仙市は、屋外を含めて全面禁煙にしていた。職場内に喫煙所がないことが「隠れ喫煙」を誘発したのだろうか。
 しかし、大仙市の担当者は「処分の大半は、敷地内駐車場に止めた通勤用の自家用車内での喫煙だった」と明かす。岐阜県の担当者も「敷地内でもマイカーの中ならセーフと思い込んで駐車場で吸っていたケースが多かった」と話した。マイカー通勤の多い地域特有の事情もあったようだ。
◆日本人の喫煙者は2割切る
 日本人の喫煙率は2割を割り込み、世界的に全面禁煙化が進む。健康増進法は全面施行から5年後をめどに、さらなる対策の必要性を検討することになっている。厚労省の担当者は、まだ具体的な動きはないとしつつ、「何が何でも敷地内禁煙をしないといけないと強行的に進めると、路上喫煙が起きるなど、ハレーションが起きる可能性がある。行政機関の施設がどういう形で禁煙を進めているのか推移を見つつ、対策を検討していくことになる」と話している。