公的年金制度 給付確保へ改革不断に(2024年6月8日『東京新聞』-「社説」)

 公的年金制度の改革に向けた議論が本格化している。少子高齢化で年金制度の支え手は減り、受給する高齢者が増える状況下で、将来の安心をどう確保するのか。社会の変化を見据えて議論を深め、不断の改革に努めてほしい。
 厚生労働省は、100年先までの見通しに基づいて年金財政の健全性を点検する「財政検証」を進めている。5年に1度の実施が法律で定められた、年金財政の「定期健診」に当たる。
 今年夏に公表する検証結果に基づいて議論を進め、年末に制度改革案をまとめる。必要な改革は2025年に法改正する。
 財政検証では、前提となるいくつかの経済状況などに基づいて年金財政を見通し、給付の変化や財政への影響を試算する。
 制度改革の狙いは給付水準の確保だ。特に国民年金は将来、受給額の目減りが見込まれ、対応策を講じることが急務である。
 保険料の納付期間を現在の40年から45年に5年間延ばす案が浮上している。月約1万7千円の保険料負担の期間は増えるが、受け取る年金額も上がる。負担と給付のバランスは適切か、議論を深めねばならない。
 働いて収入がある高齢者の年金が減額される「在職老齢年金」の見直しも論点だ。賃金と厚生年金の合計額が月50万円を超えると年金が減る仕組みだが、就労意欲をそぎ「人生100年時代」に逆行するとの批判がある。
 労働力人口の減少は深刻だ。働きたい高齢者の就労を後押しする制度改善は避けられまい。
 短時間労働者に厚生年金への加入を促すための適用対象企業の拡大も主要な論点だ。国民年金より給付が手厚い厚生年金への加入が広がれば給付水準は上がる。
 こうした制度改革はいずれも年金給付を増やし、年金財政の健全化にも寄与するものだが、納付期間の45年への延長や在職老齢年金見直しは新たな国庫負担も必要となる。短時間労働者にも厚生年金加入が広がれば、事業主の保険料負担増も避けられない。
 忘れてはならないのは、年金財政の健全性だけでなく、加入者や受給者への影響だ。
 財政検証の結果、制度改革が避けられないとしたら、複数の見直し案を国民に提示し、それぞれのメリットやデメリットについて丁寧に説明するよう求めたい。