2025年大阪・関西万博に向け、大阪市が進める路上喫煙対策が難航している。条例改正で同年1月から市内全域での路上喫煙を禁止するものの、コンビニや飲食店前の灰皿撤去を求める規定は、反対が強く導入を断念。通行人の受動喫煙を防ぐ屋内型などの公共喫煙所整備も、まだ目標の半数に届かない。命や健康をテーマにした万博に合わせて掲げた「市内全面禁煙」の実現は道半ばだ。(猪原章) 【写真】大阪市の補助で民間企業が整備した喫煙所
市の構想では、25年4月の万博開幕に向けて条例を改正。同年1月から禁止地区を市内全域に拡大し、公園や路上など公共スペースでの喫煙を全面禁止。さらに店舗前や駐車場といった私有地の灰皿も、通行人に受動喫煙の恐れがある場合、建物所有者らに撤去などの努力義務を課す予定だった。
ところが、市が条例案について昨年8~9月にパブリックコメント(意見公募)を実施したところ、寄せられた意見92件の8割にあたる78件が努力義務規定に反対。「私有地の管理は、行政が介入することではない」「規制しすぎだ」といった意見が多かった。
そのため、市はこの規定を盛り込まない条例改正案を2月開会の市議会に提出し、今月27日に本会議で可決される見通しだ。
灰皿を設置している商店主らが客の利便性を損なうことを懸念しているとみられ、市環境局の担当者は「灰皿撤去を進めやすくなるように考えたが、反発がここまで多いとは思わなかった」と説明。「規定がなくとも、撤去を働きかけることはできる。理解を得ながら進めたい」と話す。
禁止地区拡大に合わせた新たな公共喫煙所の設置も、思うように進んでいない。
「煙が周囲に流れない閉鎖型」「屋外開放型の場合は人通りから離れた場所」などの条件で計120か所の設置を計画。公設だけでは限界があり、昨年4月に民間事業者への補助制度(原則上限1000万円)を導入して協力を求めた。
しかし、3月末の時点で設置のめどがついたのは51か所で、内訳は公設22か所、民間29か所となっている。
ネックは、場所の確保のほか、喫煙対策に対する考え方の違いだ。駅ビルなどを想定していたが、既に健康増進の観点から敷地内の喫煙所を廃止した事業者も多く、「新たに喫煙所を設けることは取り組みの後退になる」と難色を示すケースもあるという。
市の推計では市内の喫煙者は約63万人で、うち約13万5000人がしばしば路上や公園で喫煙している。環境局の担当者は「喫煙者にマナーを守ってもらうためには、適切な数を確保する必要がある。条例実施まで9か月以上あり、引き続き努力したい」としている。
東京都港区は14年に改正した関連条例の中で屋外の灰皿に関するルールを規定。事業者が所有する敷地内でも、喫煙させる場合は、公共スペースにいる人に煙を吸わせない配慮を求めている。守られない場合、巡回指導員が、灰皿の撤去や適切な喫煙場所の確保などを指導。23年は1年間で約60件の灰皿を撤去した。
東京都中央区でも20年に関連条例を制定し、灰皿の撤去を求める規定を導入。「以前は撤去をお願いするのも苦労していたが、条例で明文化され、職員も説明しやすくなった」と話す。