<転校先で渡された生徒手帳にある『渡辺について話すことを禁…(2024年7月4日『東京新聞』-「筆洗)」

 <転校先で渡された生徒手帳にある『渡辺について話すことを禁ずる』という校則について尋ねてみても、みんな苦笑いするだけで何も話してくれない>-。吉田悠軌さんの『一行怪談』にあった。なるほど怖い
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▼「一行怪談」はひと続きの文章による怪談。怖さの秘密は一行という情報量の少なさにあるかもしれない。「渡辺」に何が起きたのか。なぜ口をつぐむのか。ひょっとして学校の全員で「渡辺」を…。短い文章が謎を深め、かえって恐怖や不安をかき立てられる
▼<許せない事件が相次いだのに警察と外務省は何も話してくれない>-。事件の悲しさと「なぜ」の疑問に怒りと不安がないまぜとなった一行が浮かぶ。沖縄県で米兵による性的暴行事件が相次いで発覚した問題である
▼2件の事件について、沖縄県警は報道発表を控え、事件を把握していた外務省も県側に伝達しなかった。理解に苦しむ
▼外務省は被害者のプライバシー保護などを理由にしているが、沖縄県民が当然知っておくべき事件である。なぜ伝えなかったのか、なにかの理由で意図的に隠したのではないか-。不可解な対応に県民が怒りと不信感を覚えるのは当然であり、こうしたやり方は県民の反米軍感情を高めるだけだろう
▼2件の他に県警が報道発表していない米軍関係者の性的暴行事件が3件あるという。「なぜ」の不安にまた背筋が凍る。