長崎県大村市が同性カップルの住民票で、世帯主と同居するパートナーの続柄欄に「夫(未届)」と記載したことが明らかになり、栃木県鹿沼市など同様の対応を目指す自治体も出てきた。同性カップルらからは、こうした記載が広がるよう望む声が上がる。(奥野斐)
◆家族なのに「同居人では他人、友人みたい」
「記載できるようになったら、続柄を変更したい」
東京都世田谷区で同性パートナーと同居する古谷光枝さん(48)は期待する。区は2015年にパートナーシップ制度を導入。22年11月には制度利用者が希望すれば住民票の続柄に「縁故者」とする運用を始めた。
それ以前は「同居人」という表記か、同じ住所に別々の世帯を構える形しかなかった。古谷さんは「同居人では他人、友人みたい」と別世帯にしていたが、その後「縁故者」に変更。「つながりが深くなった感じがした」。区が大村市のように対応を変えれば、もう一度、変更するつもりだ。
◆事実婚の際に用いられてきた続柄「夫・妻(未届)」
これまで「夫(未届)」「妻(未届)」という続柄は、事実婚(内縁関係)の場合に記されてきた。この住民票を基に、健康保険でどちらかの扶養に入れるなどのメリットがある。
ただ、同性カップルを承認するパートナーシップ制度の普及で「縁故者」と記載できる自治体が増えた。総務省の要領は縁故者を「親族で世帯主との続柄を具体的に記載することが困難な者」としており、「同居人」より関係性が強い。
◆「異性カップルと同様の選択肢を早急に整備すべきだ」
水谷さんは同性パートナーが事実婚パートナーと同じく、犯罪被害者遺族への国の給付金を受給できるか争う訴訟を担当してきた。今年3月には最高裁が「同性パートナーも事実婚パートナーに該当しうる」との初判断を示した。それでも、他の制度でも事実婚に該当しうるかは「制度の趣旨や目的などに照らして判断される」と、水谷さんは説明する。
同性カップルに対する偏見は根強い。水谷さんは「仮に大村市と同じような記載が広がっても、法制度の不十分さは解消されない。異性カップルと同様の選択肢を早急に整備すべきだ」と指摘し、同性婚の法制化の必要性を強調する。
◇ ◇
◆栃木県鹿沼市も7月から希望に応じ記載へ
同性カップルの住民票に「夫(未届)」と記した長崎県大村市には、各地の自治体や地方議会から4日までに12件の問い合わせがあった。市民らからは意見などが20件あり、うち14件は市の対応に肯定的、6件は否定的だったという。
5月29日には栃木県鹿沼市も、7月から希望があれば同様に記載すると発表。鳥取県倉吉市は昨年10月、県が同性カップルらを対象にした「ファミリーシップ制度」を導入したのに合わせ、行政サービスとして記載できるようにした。このほか、京都府与謝野町、福岡県古賀市が前向きに検討する考えを示している。
◇ ◇
◆東京23区と多摩地域30市町村の対応は? 一部で「縁故者」
同じところに住む同性パートナーについて住民票の続柄をどう記載するか、東京23区と多摩地域30市町村に本紙が確認したところ、長崎県大村市のように「夫(未届)」「妻(未届)」と記載できる区市町村は7日時点でゼロだった。
その中で世田谷区は「大村市に問い合わせるなど調査を始めた」とした。杉並区の岸本聡子区長は7日の区議会で「当事者に寄り添っていきたい」と積極的な姿勢を見せている。
一方で「同居人」との記載は全53区市町村で実施。墨田、世田谷、渋谷、杉並、国立の4区1市はパートナーシップ制度を利用した場合などに、港区と昭島市は外国で同性婚をしている場合などに「縁故者」の記載もできるという。(東京ニュース取材班)