農業基本法改正 食料安保の強化を図れるか(2024年6月3日『読売新聞』-「社説」)

 国際的な紛争や感染症の流行、温暖化に伴う干ばつなど、この四半世紀に日本の食料を取り巻く環境は大きく変わった。食料安全保障の強化は急務である。
 「農政の憲法」と称される「食料・農業・農村基本法」の改正法が成立した。1999年に制定された現行法が、初めて本格的に改められた。基本理念に「食料安全保障の確保」を新たに加えた。
 コロナ禍やロシアのウクライナ侵略などで食料の供給が滞り、穀物価格が一時、高騰した。酪農に欠かせない飼料の価格が上昇し、国内の酪農家は苦境に陥った。
 改正法は、食料安保について、「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民一人一人が入手できる状態」と定義した。
 日本経済の国際的な存在感が低下し、購買力が落ちているとも指摘されている。輸入にばかり頼っていては危うい。平時から食料安保の体制整備を図っていくことは喫緊の課題だと言える。
 現行法での農政は、食料自給率の向上を基本方針に据え、現在はカロリーベースで「2030年度までに45%」の目標を設定している。だが、現状では、22年度段階で38%にとどまっており、供給力は高まっていないのが実情だ。
 改正法は、食料自給率だけにとらわれず、食料安保で重要な複数の目標を新たに設定し、達成状況を年1回調査するという。
 農業には肥料などの不可欠な物資がある。小麦や大豆といった穀物の国内生産を増やすことも重要だ。肥料などに、有効な数値目標を設定して、生産基盤の強化につなげてもらいたい。
 農業の担い手確保も必須になる。農業を主な仕事とする人は23年に116万人に上るが、平均年齢は約69歳だ。今後20年で大幅に減少するのは確実である。
 新たな働き手を呼び込むには、魅力ある「稼げる農業」にしなければならない。ITの活用で省力化を進め、大規模化などで収益力を高めていく必要があろう。
 農家の収益を安定させるには価格転嫁も課題だ。改正法は、需給や品質だけでなく「合理的な費用」を考慮し、価格を決めるべきだと規定した。肥料や輸送などコスト上昇分の適切な転嫁を求めた。
 農林水産省は、有識者による会議で適正な価格形成のあり方の検討を進めている。生産や製造、小売り段階で実態調査によりコストの「見える化」を図り、取引で考慮されるようにするという。実効性のある枠組みとしてほしい。