トクリュウ犯罪 SNSでつながる集団の脅威(2024年6月3日『読売新聞』-「社説」)

 面識のない者同士がSNSで結びつき、犯罪グループを構成する時代になってきた。警察は、捜査を尽くして集団の実態解明と摘発を進め、社会不安を 払拭ふっしょく すべきだ。
 特殊詐欺の被害金を資金洗浄マネーロンダリング)したとして、大阪府警が、富山市にある会社の代表ら男13人を逮捕した。資金洗浄の総額は、少なくとも700億円に上るとみられている。
 男たちは、SNSで協力者を募り、報酬を払って金融機関に約4000の法人口座を開設させた。それらの口座を使って資金を次々と移し替え、犯罪収益だと特定されないようにしていたという。
 警察は、SNSでつながって離合集散を繰り返す犯罪集団を「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)と定義している。今回は一般社会にいる協力者を含めてトクリュウを構成した形で、逮捕された男らはその一端だろう。
 SNSの「闇バイト」で強盗や詐欺の実行役を募るグループもトクリュウの一形態である。こうした集団には、役割を細分化することで、実行役が逮捕されても、指示役まで捜査の手が及ばないようにする狙いがあるに違いない。
 金欲しさから軽い気持ちで応募する若者が多いことも、トクリュウが拡大する一因になっているとみられる。正体が見えにくい犯罪集団の広がりは、社会の不安を高める。極めて深刻な状況だ。
 府警は2年前、オンラインカジノの不正勧誘事件を摘発した。この事件の捜査で、犯罪収益の振込先に使われた口座が、今回逮捕した男たちの管理口座であると解明した。粘り強い捜査が新たな犯罪の糸口をつかんだといえよう。
 メンバーは国内外を拠点とし、秘匿性の高いアプリで連絡を取り合っていた。警察は民間会社とも連携してスマートフォンの解析や資金移動の実態解明を進めてほしい。海外の捜査機関との協力関係を強めることも大切になる。
 犯罪集団を資金面から追い詰めることも重要だ。そのためには、資金洗浄を防ぎ、犯罪収益を使えなくすることが欠かせない。
 法人口座は送金限度額が高く、大口の取引が多いため不正を見抜きにくい。金融機関は、多額の出入金を繰り返す不審な口座があれば、取引や業務の実態を迅速に確認すべきだ。国は金融機関への指導に力を入れてもらいたい。
 報酬目当てで安易にSNSの誘いに乗れば、取り返しのつかないことになる。手軽な 儲もう け話などないことを知る必要がある。