農業基本法 担い手を支える議論に(2024年4月8日『北海道新聞』-「社説」)

 「農政の憲法」とされる食料・農業・農村基本法の改正案が衆院で審議されている。1999年の現行法施行後初の改正である。
 基本理念として食料安全保障の確保や環境との調和を掲げた。
 その実現には、現基本法の施行時より半減している担い手の確保が一層重要となる。
 食料自給率の向上や、物価高などを反映させた農産物の適正な価格形成の仕組みづくりが必要だ。人材確保につながる国産振興には消費者の理解も欠かせない。
 議論を深めるために、政府は農家が安心して生産に取り組める農業の将来像を示すべきだ。与野党は政府が来年にも見直す具体的な基本計画を待たず、幅広い観点から徹底的に議論してもらいたい。
 2000年から数値目標が設定されている食料自給率は、現基本法が明記する唯一の目標である。
 カロリーベースで30年度に45%を目標とするが、22年度で38%にとどまっている。国会審議で政府は国内で自給できる米の消費が減る一方、海外飼料に頼る畜産物の消費増などを要因に挙げた。
 背景に現基本法の下で進められてきた農産物の貿易自由化があることを忘れてはなるまい。
 飼料などの輸入価格が上昇しても国産への転換が進まないのは、自由化で農家の体力が低下している面が大きい。この問題の抜本的な解決なしに食料安保を掲げても絵に描いた餅となろう。
 政府は別の目標や指標を設け、多角的に食料安保の確保を目指すとしている。だがこれまでも国内の潜在生産能力を示す食料自給力、飼料自給率を反映しない食料国産率などを追加してきた。
 食料自給率の停滞から国民の目を背けさせるかのような新たな目標設定には疑問が拭えない。
 適正価格形成の仕組みづくりについて、岸田文雄首相は法制化も視野に検討する考えを示した。
 コストなど客観的な情報の提示が肝要となる。消費者や小売業界の声も聞き、制度づくりを丁寧に進めていかなくてはならない。
 環境との調和については、農畜産業が排出する温室効果ガスの削減などが急務だ。国会で農家の安定経営と環境負荷の低減を両立させる方策を議論してほしい。
 政府は食料危機時に国が農家に増産や生産転換を要請・指示できるようにする食料供給困難事態対策法案も国会に提出している。
 国の権限強化は農家はもちろん、国民生活にも大きく影響する。慎重な審議が求められる。