農業基本法改正案審議入り 有事対応以外も重要だ(2024年3月30日『山形新聞』-「社説」)

 農政の基本理念を示す食料・農業・農村基本法の改正案について、国会審議が始まった。政府は国際紛争の激化や気候変動などに対応する新たな農業政策の展開を目指すとしているが、日本農業の足腰を強くするという本質を見誤らないようにしてほしい。

 1999年の同法施行から25年、国内外の情勢は大きく変化した。時代にふさわしい内容にするのは当然だろう。打ち出した基本理念は「食料安全保障」。具体的には「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義した。

 有事に対応した備えは重要だ。だが足元を見ると、担い手の減少や高齢化の進展、農地の減少などによって日本農業は活力を失っている。ここを修復しない限り、どんな理念を掲げても内容を伴うことは難しいのではないか。

 農業が魅力ある産業となり、若者や都市在住者らの新規就農が促されなければならない。ITの活用によるスマート農業の進展や輸出環境の整備などによって現場を活性化させ、生産基盤の一層の強化に取り組むことが不可欠だ。農業を基盤産業とし人口減少に直面する本県のような地方にとってはとりわけ重要であり、今回の改正を機に取り組みを充実、加速させたい。

 政府は農政転換の背景として、地球温暖化の進行や、物流の途絶などを挙げ、食料供給量が大幅に不足するリスクが増大していると指摘した。確かにウクライナ危機による穀物相場の高騰や中東情勢の緊迫化による海運の混乱は、海外依存度が高い日本のアキレス腱(けん)をまざまざと見せつけた。

 日本のカロリーベースの食料自給率は38%で先進国の中で最低だ。専門家の間では相対的な経済力の低下などが影響し、世界市場での食料買い付け力が落ちてきたとの指摘もある。

 政府は基本法改正に併せて、食料安保政策を具体的に進める食料供給困難事態対策法案と農地法改正案も決定。困難事態対策法案は、気候変動に伴う穀物類などの主要産地の生産不安定化などを想定し、深刻度に合わせ、農業者への生産拡大要請など3段階の対応を規定した。

 国民が最低限必要とする食料が不足する恐れがある場合は、生産転換や割り当て・配給を実施し、実効性を担保するために違反や拒否には罰則も設けた。極端な例では、花卉(かき)類を生産している農家にイモなどカロリーの高い農作物を栽培するように強制するケースも想定できる。

 こうした対応を取らざるを得ないような状況は緊急事態だろうが、私権を制限するだけに、必要性や具体的な内容を丁寧に説明しなければならない。

 日本農業が潜在力を十分に発揮できているか疑問だ。稲作は国内需要を上回る供給力を持ちながら、減産で価格を下支えしてきた。食料供給の大幅不足が懸念されるというのなら、コメ生産能力のフル活用も考えたい。国内市場は縮小しているが、国内で消費できない分は輸出に回し、いざというときは国内に戻す構想は検討に値するのではないか。まずは日本米のさらなる海外市場開拓に官民の知恵を絞りたい。