農業基本法改正案に関する社説・コラム(2024年3月14日)

食料安保と活性化不可欠/農業基本法改正案(2024年3月14日『東奥日報』-「時論」)

 

 国際紛争の激化や気候変動などに対応する新たな農業政策を展開するため、政府は農政の在り方を示す食料・農業・農村基本法の改正案を閣議決定した。今国会で成立させ、食料供給システムの強化を図りたい考えだ。

 1999年の同法施行から実に25年になり、この間、国内外の情勢は大きく変化した。時代にふさわしい内容にするのは当然だ。打ち出した基本理念は「食料安全保障」。具体的には「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義した。

 有事に対応した備えは重要だ。だが足元を見ると、担い手の減少や高齢化の進展、農地の減少などによって日本農業の足腰が弱っていることは明白だ。ここを修復しない限り、どんな理念を掲げても内容を伴うことは難しいのではないか。

 農業が魅力ある産業となり、若者や都市在住者らの新規就農が促されなければならない。ITの活用によるスマート農業の進展や農地のさらなる集約、輸出環境の整備などによって現場を活性化させ、生産基盤の一層の強化に取り組むことが不可欠だ。これまでも取り組んできたが、今回の改正を機に改めてその重要性を認識し、取り組みを加速させたい。

 政府は今回の農政転換の背景として、地球温暖化の進行や、物流の途絶などを挙げ、食料供給量が大幅に不足するリスクが増大していると指摘した。

 確かにウクライナ危機による穀物相場の高騰や中東情勢の緊迫化による海運の混乱は、海外依存度が高い日本のアキレス腱(けん)をまざまざと見せつけた。日本のカロリーベースの食料自給率は38%で先進国の中で最低だ。専門家の間では相対的な経済力の低下などが影響し、世界市場での食料買い付け力が落ちてきたとの指摘もある。

 政府は基本法改正に併せて、食料安保政策を具体的に進める食料供給困難事態対策法案と農地法改正案も決定。困難事態対策法案は、気候変動に伴う穀物類などの主要産地の生産不安定化などを想定し、深刻度に合わせ、農業者への生産拡大要請など3段階の対応を規定した。

 国民が最低限必要とする食料が不足する恐れがある場合は、生産転換や割り当て・配給を実施し、実効性を担保するために違反や拒否には罰則も設けた。極端な例としては、花卉(かき)類を生産している農家に、イモなどカロリーの高い農作物を栽培するように強制するケースも想定できる。

 こうした対応を取らざるを得ないような状況は緊急事態だろうが、私権を制限することになるだけに、必要性や具体的な内容を丁寧に説明しなければならない。なぜここまでの想定をしなければならないのか、国会で十分に議論を尽くしてほしい。

 日本農業は潜在力を十分に発揮できているだろうか。稲作は国内需要を上回る供給力を持ちながら、減産で価格を下支えしてきた。食料供給の大幅不足が懸念されるというのなら、コメ生産能力のフル活用も考えたい。国内市場は縮小しているが、国内で消費できない分は輸出に回し、いざというときは国内に戻す構想は検討に値するのではないか。まずは日本米のさらなる海外市場開拓に官民の知恵を絞りたい。

 

農業基本法改正案 国内の生産基盤強化を(2024年3月14日『秋田魁新報』-「社説」)

 政府は農業政策の理念や方向性を示す「食料・農業・農村基本法」の改正案を閣議決定し、今国会に提出した。紛争や地球温暖化などによる食料危機に備えるため、食料安全保障の確保を基本理念に位置付けた。今国会で成立させたい考えだ。

 基本法改正案は、食料安保を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義。政策を具体化するため今国会に提出した食料供給困難事態対策法案では、コメや小麦、大豆などの不足時に政府が供給目標を決め、農家に生産拡大を要請し増産計画の届け出を指示できると規定した。

 穀倉地帯ウクライナへのロシアの侵攻など食料を巡る情勢の変化を踏まえれば、食料安保の確保・強化は当然だろう。とはいえ国内農業は担い手不足が深刻。国民に安全な食料を安定供給するためには、生産基盤のさらなる強化が欠かせない。担い手確保のほか、農地集積や作業の省力化などを強力に進め、生産性の向上を急ぐべきだ。

 ウクライナ危機で小麦の国際価格が一時高騰した。円安の日本では輸入品を原材料とする食料品が値上がりしている。世界の人口が増加する一方、温暖化に伴う気候変動で穀物生産が不安定となるなど、海外からの食料調達環境は厳しさを増す。

 こうした中、日本の2022年度の食料自給率はカロリーベースで38%。先進国の中では最低で、ほぼ横ばいが続く。まずは自給率向上の取り組みを加速させることが重要だ。

 しかし23年の農業を主な仕事とする基幹的農業従事者のうち6割を70代以上が占め、50代以下は2割にとどまる。そして20年後には従事者数が116万人から30万人と4分の1になる見込み。このままでは現状の生産水準の維持もおぼつかない。

 生産性を高めるため、政府は今国会にスマート農業促進法案も提出した。ロボットや人工知能(AI)などの普及による作業の省力化が急がれる。農産物輸出への積極的な支援も必要ではないか。魅力ある産業として、大都市の若者の就農者が増えるような取り組みにこれまで以上に力を入れるべきだ。

 基本法改正案では食料自給率などの数値目標を設定し、達成状況を年1回以上検証することも盛り込んだ。多くを輸入に頼る肥料や飼料などの自給率目標を示すことも想定している。

 これまでの食料自給率には、肥料や飼料の状況が反映されておらず、自給の実態を示していないとの指摘がある。詳細な実態に即した施策を進めていかなければならない。

 深刻な担い手不足を招くまで状況を改善できなかったことを踏まえ、従来の農業施策の検証も必要だろう。1999年施行の基本法が改正されれば初めて。これを機に日本農業の展望を大きく切り開けるような活発な国会議論が求められる。

 

農業基本法の改正 有事対応できる基盤こそ(2024年3月14日『福井新聞』-「論説」)


 先月末に閣議決定された食料・農業・農村基本法の改正案。1999年の施行以来初の改正で、この間に国内外の情勢は大きく変化しており、時代に沿った内容にするのは当然だろう。肝となるのは「食料安全保障」であり「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義している。

 改正の背景には、ロシアによるウクライナ侵攻で穀物相場が急騰したり、中東情勢の緊迫化で海運が混乱したりしたことが挙げられよう。海外依存度が高い日本は大波を受けた格好だ。加えて、地球温暖化の加速化で食料の自給が危ぶまれる事態も起きかねない。日本の食料自給率はカロリーベースで38%と先進国の中でも最低となっている。ここに来て、経済力の低下などが影響し、世界市場での食料の買い負けといった状況にも陥っている。

 政府は基本法改正に併せて、政策を具現化する食料供給困難事態対策法案と農地法改正案も決定した。困難事態対策法案は気候変動に伴う穀物類産地などの生産の不安定化に備え、深刻度に合わせた農業者への生産拡大要請など3段階の対応を規定している。さらには、国民に最低限必要な食料が不足する恐れがある場合は、生産転換や割り当て・配給を実施。実効性確保のため違反や拒否には罰則も設けている。

 極端な例を挙げるとすれば、花などを栽培している農家にジャガイモなどカロリーの高い作物を育てるよう強制するケースも考えられる。まるで戦時下を思わせる対応だが、政府が私権に手を突っ込むようなことになるだけに、必要性や具体的な中身を丁寧に説明するべきだし、なぜこうした想定をしなければならないのか、国会で熟議を尽くす必要がある。

 有事への備えは重要であり、危機感の程も伝わってくる。だが、日本の農業自体が、縮む一方の就農人口や増え続ける耕作放棄地など今や足腰の弱体化は明らかだろう。ここを何とかしないと有事対応は困難と言わざるを得ない。それにはITを用いたスマート農業の振興や農地のさらなる集約化、輸出環境の整備などにより、生産基盤の一層の強化が欠かせない。魅力ある産業として若者など新規就農者を取り込む必要がある。今回の改正をこうした取り組みを加速化させる契機としなければならない。

 コメの生産は国内需要を上回る供給力がありながら減産で価格を下支えするという、いびつな構造だ。大幅な食料不足が危惧されるというのであれば、生産能力のフル活用も想定すべきだろう。ただ、耕作放棄地は簡単には元に戻らないことも加味する必要がある。