【農業基本法改正】産地が力をつける機会に(2024年3月25日『高知新聞』-「社説」)

 産業構成で農業の占める割合が大きい高知県のような地域の役割がしっかり評価され、支えられる体制になることを望む。それが日本全体の食料安全保障につながるはずだ。
 政府は、日本農業の在り方を示す食料・農業・農村基本法の改正案を閣議決定し、国会に提出した。「農政の憲法」とも呼ばれる法律の四半世紀ぶりの見直しで、世界の食料需給が逼迫(ひっぱく)する中、食料安保に主眼を置いたのが最大の特徴だ。
 ロシアのウクライナ侵攻や地球温暖化による異常気象、世界人口の増加などで各国の食料争奪戦は激化している。生活を支える「食」を安定して確保する重要性は増している。国内の生産力の底上げを図るのは当然の流れだと言える。
 法案は、食料安保を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義し、基本理念に明文化した。この理念が、産地が力をつけるための施策の裏付けなどにもなる。意義は小さくあるまい。
 食料安保の強化に向けた課題はさまざまあるが、大きな要素になるのはやはり、担い手の確保と持続可能な農業経営の実現だろう。
 国内で主に農業で生計を立てる人は、20年間で半減し、本県でも4割超減った。背景には、農産品の取引は流通・消費者側の力が強いケースが多く、農家の経営が圧迫される構図があったことは否定できない。
 近年はエネルギーや資材の高騰も続き、農業経営の不安に拍車が掛かる。そうした中、法案は食料価格に関して、生産コストの価格転嫁を念頭に「合理的な費用が考慮される」必要性を明記した。適正な価格形成の仕組みは本県も求めていた項目だ。こうした理念をどう具現化していくか、実行力が問われる。
 法案は、食料自給率や農業資材の確保状況などで目標を設定し、達成状況を年1回調査するともした。日本の食料自給率38%(カロリーベース、2022年度)は先進国の中では最も低く、30年度の目標値45%にも遠い。自給率の目標設定と達成にはこだわっていくべきだ。
 ほかには、農産物の輸入相手国の多様化や、輸出拡大を通じた国内の生産基盤の整備を盛り込んだ。高知県が力を入れる、先端技術を使ったスマート農業を通じた生産性の向上なども明記された。
 生産力の強化には、意欲のある若手や農業法人に農地を集約するなど経営の大規模化、効率化は欠かせない。一方で、小規模農家が農村を支えている中山間地域の現実もある。めりはりの利いた施策展開が求められる。
 政府は関連法として「食料供給困難事態対策法案」を併せて提出。有事や異常気象時など食料危機につながる恐れがある場合、品目ごとに供給目標を決め、農家に生産拡大を要請できると規定した。
 食料確保の一つの手段には違いないが、私権を制約しかねない施策でもある。国会での丁寧な議論と、十分な周知が前提になる。