イスラエル支援 米は「二重基準」やめよ(2024年5月30日『東京新聞』-「社説」)

 米国のバイデン政権は、イスラム組織ハマスの掃討を名目にパレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けるイスラエルを擁護する一方、ロシアのウクライナ侵攻を厳しく非難。アラブ諸国などから「二重基準」と批判されている。
 米国がイスラエルの過剰な反攻を支援し続ければ、パレスチナアラブ諸国の反発に加え、ロシアなどにも付け入る隙を与える。市民の安全を無視した攻撃は何ぴとたりとも許されないという、人道重視の原点に立ち返るべきだ。
 イスラエルは26日、避難民の集中するガザ南部ラファを空爆し、民間人45人が死亡。国際司法裁判所(ICJ)は24日に攻撃の停止を命じていた。民間人の犠牲は膨らみ続け、同地区の保健当局によると、戦闘が始まった昨年10月以降の死者は3万6千人を超えた。
 危機的な人道状況に懸念を強める国際社会は、国連の総会や安全保障理事会で即時停戦を求める決議案を採決してきたが、米国はイスラエル擁護の立場から反対や拒否権を発動してきた。
 しかし、米国内でも若者ら民主党支持層の間でパレスチナ人への同情が広がりを見せている。
 調査会社ギャラップによると、3月時点でイスラエルへの支持は18%なのに対し、不支持は75%に上る。米国内の大学では反イスラエルの学生デモが相次ぎ、大統領選再選を目指すバイデン大統領の支持率低迷にもつながっている。
 こうした状況にバイデン政権も態度を変えつつある。3月25日の国連安保理では即時停戦を求める決議案に初めて拒否権を行使せず棄権に回り、採択を黙認した。
 さらに、バイデン氏は5月上旬のインタビューで、イスラエルがラファに侵攻すれば「武器は提供しない」と踏み込んだ。
 米政府はその直後、イスラエルに提供した兵器が国際人道法に違反して使われた可能性があると発表した。
 ただ個人の戦争犯罪などを裁く国際刑事裁判所ICC)の検察官が20日戦争犯罪容疑でイスラエルのネタニヤフ首相らの逮捕状を請求すると、バイデン氏は「言語道断だ」と反発。イスラエルのラファ空爆で多数の民間人が死亡したのは、その直後だった。
 ガザの人道状況を改善するにはイスラエルの擁護や武器提供に代えて、和平を説くべきである。米国にはその責任があるはずだ。