具体的な治療をしていないから請求します…「外来管理加算」の不思議 存在意義は「内科の収入アップ」か(2024年5月30日『東京新聞』)

<医療の値段・第3部・明細書を見よう>③
 東京都内に住む70代の女性は10年ほど前から、地元の診療所(20床未満の医療機関)で、糖尿病の治療を続けている。
女性が糖尿病治療で受け取った診療明細書。外来管理加算や特定疾患療養管理料、特定疾患処方管理加算が併算定されている
 
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女性が糖尿病治療で受け取った診療明細書。外来管理加算や特定疾患療養管理料、特定疾患処方管理加算が併算定されている
 「区の健康診断で、血糖値が少し高いと言われ、病院を紹介されました。それ以来毎月1回、検査と薬をもらいに通っています」
 領収書には「初・再診料」126点(1点10円、1260円)とある。内訳を「診療明細書」で見ると、再診料73点▽外来管理加算52点▽明細書発行体制等加算1点―となっている。
 耳慣れない「外来管理加算」とは、再診で検査や処置などをしないときに「患者に症状の再確認や療養上の注意点などを説明し、その要点をカルテに記載」すれば算定(請求)できる。
◆診療側と支払側が激論
 具体的な治療をしないときに算定できるという一見変わった加算。これを巡って診療側と支払い側が激しく対立したことがあった。
 「外来管理加算は廃止を強く主張致します」
 昨年11月、診療報酬を審議する厚生労働省中央社会保険医療協議会中医協)。支払い側委員の健康保険組合連合会健保連)理事の松本真人はそう発言し、診療側委員を驚かせた。
◆支払側「曖昧な条件で算定できて疑問」
 その理由を「外来管理加算には対象の疾患や診療科の条件がなく、丁寧な問診や説明という非常に曖昧な条件で算定でき、疑問を持っている」と述べた。
 さらに、生活習慣病などの計画的な医学管理を行うと請求できる「特定疾患療養管理料」などと、外来管理加算を併せて算定するのは「二重評価」に当たると指摘。「保険機関のみならず、患者にとっても理解し難い」と批判した。
◆「全く容認できません」診療側が猛反発
 診療側委員の日本医師会常任理事・長島公之がすぐさま強く反論した。
 「暴論がございました。全く容認できません。詳細な診察や丁寧な説明という医療行為を全否定するものです」。だが、松本は否定したのではなく、他の医学管理料と内容がダブっていると指摘したのだった。
◆外科の技術料に代わる評価
 外来管理加算の創設は1992年。制度に詳しい関係者は「再診料を統一する際、外科のような技術料がない内科の診察を別の形で評価するものとしてできたと聞いている」と話した。事実上、内科の収入を底上げするためとみられる。
 冒頭の女性の診療明細書には外来管理加算と特定疾患療養管理料に加え、特定疾患の治療薬を処方したときに算定できる「特定疾患処方管理加算2 66点」もあった。「症状はずっと安定している」(女性)という糖尿病の治療で、再診料や処方箋料以外に、三つの報酬計3430円(女性の窓口負担は1割)が毎月上乗せされていた。
 それを女性に伝えると「そうですか。ふだんは明細書を見ないけど、よく見ると、こういう仕組みになっているんですね」。
 松本は「患者が『なぜ、こんなにお金がかかるんですか』と医師には聞きづらい。保険が適用されるので、あまりコスト意識が湧かないのかもしれません」と話す。「だから、われわれはもっと議論しないといけない。それが中医協の仕事だと思っています」(文中敬称略)
 診療明細書 診療内容や調剤内容、点数などを記した明細書で、会計時に医療費の領収書と一緒に受領できる。領収書よりも詳しく、処置や検査、薬の処方を確認できる。傷病名の記載はない。「診療報酬明細書(レセプト)」は医療機関が保険機関に医療費を請求するために作成し、審査支払機関に毎月、患者ごとに提出する。
<医療の値段・第3部・明細書を見よう>
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