ガザの紛争に関する社説・コラム(2024年4月7日)

 
ガザの紛争収束には米国の役割が不可欠だ(バイデン米大統領㊧とイスラエルのネタニヤフ首相)=ロイター

 

ガザ戦闘半年 飢餓と虐殺、容認しない(2024年4月7日『茨城新聞山陰中央新報』-「論説」)

 

 イスラエル軍イスラム組織ハマスが、パレスチナ自治区ガザで戦闘を始めてから7日で半年を迎える。これを機に問いたい。私たちはこの惨劇に慣れてしまっていないか。事態の悪化阻止は、国際社会の責任だ。

 きっかけをつくったのはハマスであり責任は重い。昨年10月7日、ガザに近いイスラエルの音楽祭や集団農場を襲撃、約1200人もの罪のない市民を殺害した上、200人を超える人質を組織の拠点であるガザへ拉致した。

 被害者には赤ん坊や老人が含まれ、処刑スタイルや強姦(ごうかん)を伴う殺害もあったとされる。1948年のイスラエル建国以来虐げられ続けたパレスチナ人の苦難を考慮しても、到底正当化はできない。

 第2次大戦中のユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)以来の悲劇に見舞われたイスラエル側の怒りも理解はできる。しかし、圧倒的に優勢なイスラエル軍の半年間に及ぶ攻撃は、ガザ市民ら3万3千人以上の命を奪った。ガザの長期封鎖によって、飢餓すら発生している。

 それでもイスラエルの右派市民を取材すると「もっと激しい攻撃をしてもいい」とすら話す。世論調査でもパレスチナに対する人命軽視の傾向が浮かぶ。ホロコーストの歴史を胸に刻む国民が、なぜ飢餓を容認できるのか。

 後ろ盾である米国がようやく圧力を強めつつあるが、イスラエルのネタニヤフ政権は、ハマスの残党部隊が潜んでいるとされるガザ南部ラファへの侵攻計画を捨てていない。ラファには避難民ら約150万人が密集しており、攻撃に踏み切れば犠牲拡大は不可避だ。

 国連人権理事会が任命した特別報告者は、ガザの状況を「ジェノサイド(民族大量虐殺)の域に達した」と指摘した。さらにイスラエル軍が食料支援団体 「ワールド・セントラル・キッチン」の車両を攻撃し、メンバー7人が死亡する悲劇が起きた。ガザを軍事的に封鎖している以上、食料の安全供給を確保する責任がイスラエル側にあるのは言うまでもない。

 世界は飢餓と虐殺を容認しない。事態が悪化すれば、これまで封印されてきたイスラエルに対する何らかの制裁案の検討が浮上する可能性がある。イスラエル政府は、そのことを覚悟すべきだ。

 半年で戦火の拡散も深刻化した。ガザ侵攻に反発するイエメンのフーシ派は、紅海とアデン湾で船舶への攻撃を続け、世界貿易の主要ルートに打撃を与えた。レバノンヒズボラは、イスラエル領内へミサイル攻撃を実行している。いずれも親イランの武装組織だ。

 1日には、シリアにあるイランの公館がミサイル攻撃を受け、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の将官らが死亡した。ヒズボラの攻勢に対するイスラエルの報復とみられている。公館はウィーン条約で「不可侵」とされ、攻撃は重大な国際法違反だ。イランが報復を宣言するなど、ガザ情勢は地域を急激に不安定化させている。

 イスラエルがこれ以上国際的な孤立を深めれば、ハマスを壊滅させたとしても国家の安全保障は強化されない。国連によればガザの医療施設の84%、主要道路の92%が破壊され、再建の希望は失われつつある。イスラエルハマスはこれ以上、ガザの未来を踏みにじる消耗戦を続けてはならない。

 

ガザの紛争収束へ国際社会は手を尽くせ(2024年4月7日『日本経済新聞』-「社説」)

 

 パレスチナ自治区ガザを支配するイスラム組織ハマスイスラエルを襲撃した事件から半年がたった。双方の報復合戦は連鎖し、無辜(むこ)の民間人を含めておびただしい犠牲をもたらしている。

 イランなどの周辺勢力を巻き込んで事態がエスカレートする懸念も膨らんでいる。国際社会は紛争の早期収束に向け、あらゆる手を尽くさなければならない。

 とりわけイスラエルにとって最大の後ろ盾となってきた米国の責任は大きい。バイデン大統領はイスラエルのネタニヤフ首相との電話協議で、イスラエルが民間人の安全確保策をとらなければ支援を見直す可能性があると警告した。即時停戦も要求した。

 米国に本拠を置く支援団体の隊員7人がイスラエル軍の攻撃で死亡したのを受けた対応だが、遅きに失したと言わざるを得ない。

 私たちは米国があらゆる手段でイスラエルに自制を促すよう求めてきたが、バイデン政権の対応は十分だったとは言えない。11月に米大統領選を控え、資金面でも大きな影響力を持つユダヤ系米国人の反発を考慮した面がある。こうした親イスラエル路線が、選挙のカギを握る若年層らの離反を招いているのは皮肉というほかない。

 今回の衝突でガザ側の死者は3万3千人を超えた。これ以上、惨劇が続くのを許すわけにはいかない。軍事支援の凍結も含め、米国は戦闘を停止するようイスラエルに圧力をかけるべきだ。

 イスラエルは警告に応じなければならない。国際法を順守し、民間人や支援団体職員の保護を徹底するのは当然だ。

 飢餓の懸念が増すガザには継続的な物資搬入が不可欠だ。日本も人道分野を中心に可能な限り支援を続けてもらいたい。ただ、人道状況を根本的に改めるにはまずガザでの戦闘をやめる必要がある。

 ネタニヤフ氏が戦闘を続ける背景に政権維持の思惑があるとの見方が強い。ハマス壊滅や人質解放の目標が達成できずに停戦すれば、退陣圧力が強まるからだ。しかし、国連安全保障理事会が即時停戦を求める決議を採択したように、速やかな戦闘停止は国際社会の一致した意思である。

 このままではイスラエルは国際的な孤立を深めるだけだ。そんなイスラエルを擁護し続ければ、米国も国際世論の批判を免れない。それは中国やロシアの望むところだろう。

ガザ戦闘半年 憎悪と飢餓の拡大止めよ(2024年4月7日『新潟日報』-「社説」)

 ガザの戦火はやまず、死者は増え続けている。一般市民や、支援に当たる外国人までが犠牲になっている。人道危機も深刻さを増し、このままではさらに多数の餓死者が出かねない。

 戦火が中東各地に広がっていることも憂慮される。国際社会は休戦交渉に力を注ぎ、人質の解放と和平の道を探る努力を続けねばならない。

 パレスチナ自治区ガザで、イスラム組織ハマスイスラエルの戦闘が始まってから、7日で半年がたった。

 戦闘の発端となったハマスのロケット弾攻撃と、多くの人質を連れ去った行為は許されるものではない。

 ◆子どもや女性が犠牲

 一方、イスラエルのガザ攻撃は、あまりにも過剰と言わざるを得ない。

 ガザの惨状は目を覆う。ガザ保健当局によると、死者は3万3千人を超えた。女性や子どもが大半を占める。

 この1カ月で約3千人が亡くなった。1日当たり約100人もの命が失われている。

 「ガザは世界最大の墓地と化している」と言われる現状は、痛まし過ぎる。

 イスラエル軍が、国際法違反に当たる病院攻撃を繰り返していることは目に余る。

 1日には食料支援団体の車両が攻撃を受け、米国や英国、オーストラリアなどの国籍を持つ7人が死亡した。これまでには国連機関の職員も多数が犠牲になっている。イスラエル軍は、無差別攻撃をやめるべきだ。

 懸念されるのは、イスラエルのネタニヤフ首相が、ガザ最南部ラファに侵攻する方針を変えていないことだ。

 約150万人の避難民が密集しているラファに侵攻すれば、民間人の犠牲拡大は必至だ。

 人道危機も心配だ。国連機関などによると、ガザの人口の半分、110万人が「壊滅的な食料不足」に苦しみ、ガザ北部は5月までに飢饉(ききん)に襲われるとみられている。

 人道問題調整室(OCHA)の発表では、食料不足と脱水症で子ども28人が亡くなった。

 イスラエル戦時内閣は5日、人道支援物資の搬入拡大に向けた緊急措置を決定した。ガザ北部の検問所などを開放する。

 飢えに苦しむ人たちを急ぎ救わねばならない。

 ただ、戦闘が続く限り根本的な解決にはならない。飢饉を起こさないためにも一日も早い休戦へつなげたい。

 イスラエルの攻撃が、ガザにとどまらないことも不安だ。

 シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の領事部の建物が1日、空爆で破壊され、イラン革命防衛隊の将官や市民ら13人が死亡した。

 イランは、イスラエルの仕業と断じ、外交施設への攻撃は「国際法違反」と非難している。

 イスラエルは、イランからレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラなどに武器が供与されているとみて、シリア領内を再三攻撃している(地図参照)。

 イランはこれまで、イスラエル領土への直接攻撃を控えてきたが、報復を宣言した。万一、攻撃すれば、イスラエルを支援する米国も参戦し、イラン本国が攻撃される可能性もある。

 中東の緊張激化や紛争拡大を招くことは、断じて避けねばならない。

 ◆米国の対応に変化も

 注視したいのは、これまでイスラエルを擁護していた米国の対応が変化してきたことだ。

 国連安全保障理事会は3月下旬、停戦を求めることを決議した。米国が拒否権を行使せず棄権したためで、停戦決議の採択は初めてだった。

 米国はそれまで、「停戦」の表現がある決議案に拒否権を行使し、次々と葬ってきただけに大きな転換といえよう。

 拒否権行使に各国から非難が続出していたことや、米国内でもイスラエル寄りのバイデン政権への批判が高まっていることが要因だろう。

 米国はイスラエルに、民間人を保護する具体策の発表と履行などを求めた。

 国際社会からの孤立が進んでいることをイスラエル政府は自覚し、休戦交渉を成立させ、和平へ方向転換すべきだ。 

 

ガザ戦闘きょう半年 国際社会で停戦実現せよ(2024年4月7日『中国新聞』-「社説」)

 イスラエル軍イスラム組織ハマスパレスチナ自治区ガザで戦闘を始めてから、きょうで半年になった。イスラエルの圧倒的な軍事力によって、戦況はジェノサイド(民族大量虐殺)の様相を深めている。罪のない多数の市民が日々殺害され、深刻な飢餓が広がっている。

 イスラエルは、後ろ盾である米国のバイデン大統領との電話会談を受け、人道上の対応を改善する姿勢を示したが、戦闘終結への道筋は一向に見えない。悲惨な戦いを一刻も早くやめさせるために、国際社会は連携を強めねばならない。

 戦闘の端緒はハマスだった。昨年10月7日、ガザに近いイスラエルの音楽祭や集団農場を襲撃し、約1200人もの市民を殺害した上、200人を超える人質を拉致した。1948年のイスラエル建国以来、虐げられてきたパレスチナ人の苦難を考慮しても、正当化は到底できない。

 イスラエル軍は即座にガザに空爆を始め、地上侵攻を進めた。命を奪った3万3千人超の7割が、女性や子どもとされる。長期にわたってガザ境界を封鎖し、多くの市民が飢餓に苦しむようになった。

 イスラエルは避難民が身を寄せる病院や学校も標的にしてきた。国際法違反は明らかだ。国連人権理事会が任命した特別報告者は「ジェノサイドの域に達した」と指摘する。人道状況の危機を回避するために、あらゆる手を尽くすべきだ。

 さらに4月に入って、シリアのイラン大使館の建物がミサイル攻撃を受けた。親イランの武装組織ヒズボラの攻撃に対しイスラエルが報復したとみられている。これを受け、イランは報復を宣言した。報復の連鎖で戦闘が広がるような事態は、何としても避けねばならない。

 この半年、国際社会は戦闘を抑えるよう働きかけてきた。おとといも国連人権理事会が「イスラエルへの武器や弾薬、軍需品の売却や移転」の停止を加盟国に求める決議案を採択した。だがイスラエルは強硬姿勢を改めず、今も「ハマスの壊滅」を掲げている。事態の悪化を食い止めるのは国際社会の責任だ。冷静に効果的な策を探る必要がある。

 中でも、イスラエルの最大の支援国である米国が鍵を握る。バイデン大統領はイスラエルのネタニヤフ首相との4日の電話会談で、ガザの民間人を保護する具体策の発表と履行を求め、応じなければ支援を見直すと強調した。異例の警告を受け、イスラエルはガザ北部の検問所からの人道支援物資の搬入を一時的に認めると決めた。

 日本はイスラエルパレスチナの双方と良好な外交関係にある。その立場を生かして人道支援にもっと力を入れられないか。豊富な外交経験を自負する岸田文雄首相には、国際社会をリードする役割を果たしてほしい。

 戦闘が長引くことで惨劇に慣れてしまってはならない。虐殺や飢餓は決して容認できない。われわれ国民も関心を失わないようにしたい。

 

ガザとヒロシマ(2024年4月7日『中国新聞』-「天風録」)

 ゲノム(全遺伝情報)解析で迫る。親の被爆が子の健康に影響するのかどうか。被爆者と2世の約500家族を対象に、放射線影響研究所が進める。2世には健康不安のみならず、結婚や就職で差別を受けた人も。繊細な問題だけに説明会を開く

▲原爆がいかに非人道的で、人を苦しめ続けるかを示してもいる。その悲惨さを想像できないのか。パレスチナ自治区ガザは「ナガサキヒロシマのようであるべきだ」。米下院議員が原爆投下を促すような発言をした

▲核を使えば、イスラエル軍は侵攻を「早く終わらせられる」と。侵攻によってガザでは市民を中心に3万3千人超が死亡。飢餓も広がる。ところが議員は「人道支援には一銭も使うべきでない」とも語った。人命や人権へのまなざしはないのか

▲ガザへの核攻撃には昨年11月、イスラエルの閣僚も「選択肢の一つ」と発言していた。核兵器のもたらす悲劇を、なぜこうも理解できないのだろう。もどかしく、腹立たしくてならない

ガザ地区ヒロシマのようにとは許すまじ(篠原誠)。きのう本紙の時事川柳にあった。市民の憤怒と平和への願いがにじむ。広島選出の首相は米国でしっかりともの申せるか。

 

【ガザ戦闘半年】即時停戦を改めて求める(2024年4月7日『高知新聞』-「社説」)

  
 どんな大義名分があろうと戦争は決して正当化できない。中東のパレスチナ自治区ガザの悲劇がそれを改めて示している。一刻も早い停戦が望まれる。
 ガザを実効支配するイスラム組織ハマスイスラエルの戦闘は、発端となったハマスイスラエルへの攻撃から半年がたった。
 以来、ガザは地獄のありさまである。報復に出たイスラエル軍空爆や地上侵攻によって、町が無残に破壊された。
 死者は既に3万人を大きく超えており、中でも子どもの犠牲が目立つという。食料不足や医療体制の崩壊など人道危機も深刻さを増しているが、停戦の道はいまだ見えないのが実情だ。
 戦闘の直接的な原因をつくったのはハマスである。ロケット弾による攻撃や越境で大勢のイスラエル市民を虐殺し、拉致した。
 イスラエルとは長年ガザを巡って緊張関係にあったとはいえ、許されない蛮行である。その意味ではイスラエルの憤りは理解できる。
 だが、イスラエルの報復姿勢は、見境がなくなっていると批判されても仕方がない。民間人に加え、人道支援に当たる国連機関や非政府組織(NGO)の関係者も犠牲になり続けている。
 先日も食料支援団体の車両が攻撃され、外国籍のメンバーを含む7人が死亡した。団体関係者によると、車両の移動についてイスラエル軍に情報提供をしていたという。
 この先の被害拡大も危惧される。ガザ最南部ラファには現在、激戦地の北部などから逃れてきた避難民が約150万人いる。イスラエルはそのラファ侵攻も辞さない構えだ。
 国連をはじめ国際社会はこれまで、イスラエルの人道軽視の姿勢を厳しく非難してきた。即時停戦などを求め続けてきた。しかし、一時的な休戦はあったものの、イスラエルは強硬姿勢を貫いている。
 先日はハマスを支援するイランの在シリア大使館も空爆。戦火が広がりかねない事態を招いた。
 こうなった責任の一端はイスラエルの後ろ盾である米国にもあるはずだ。米国は国連安全保障理事会での停戦決議を拒否。国際社会の米国を見る目も厳しくなっている。
 米国内でもバイデン米大統領への批判が高まりつつある。近づく大統領選も意識したのだろう。バイデン氏が最近ようやく、イスラエルに厳しい姿勢を見せ始めた。
 ネタニヤフ首相に対し、民間人を保護する具体策の発表と履行を強く要求。応じなければ支援を見直すと異例の警告を発した。
 イスラエルハマス双方に即時停戦を改めて強く求める。残る人質の解放も急ぐべきだ。
 ロシアが続けるウクライナ侵攻もそうだが、この間、国際社会の無力ぶりが目立ってきた。日本も含め、圧力をさらに強め、速やかな停戦や人質解放を実現したい。それには米国の責任と役割が大きいのは言うまでもない。

 

ピンポン外交(2024年4月7日『高知新聞』-「小社会」)

 ピンポン外交と聞くと、なぜか映画「フォレスト・ガンプ/一期一会」を思い出す。1950年代からの米国の激動史。純粋な心を持つ主人公が、歴史的な事件に次々に顔を出す。一時は卓球の名選手にもなっていた。

 そのピンポン外交は、53年前のきょう7日に始まっている。世界選手権で名古屋を訪れていた中国選手団が、米国チームの訪中受け入れを発表した。冷戦下の世界はあっと驚いた。

 きっかけは偶然と小さな勇気だという。中国選手団のバスに、1人の米国選手が間違って飛び乗ってきた。米国人と接触すれば処罰の対象。緊張が走る。歩み出たのは世界を3度制した荘則棟選手。「米国人民は中国の友人だ」。山水を描いた錦の織物を手渡した。

 荘さんは周恩来首相の「友好第一、試合第二」という言葉を思い出した、と後年の本紙にある。むろん、きれいごとだけではあるまい。ソ連との対立激化で、中国はひそかに米国との雪解けを望んでいた背景もあったようだ。

 時代も国力も違うが、今の中国政府の振る舞いや懐の深さはどうなのだろう。台湾東部沖地震でも、国連の会合で各国からの見舞いに謝意を表明。台湾側は、震災を利用した「一つの中国」のアピールと強く反発した。周辺に与える覇権主義的な脅威はとめどない。

 米国が絡むガザ戦闘もきょうで半年になる。激動を経てきたはずの国際政治は進化したのか、退化したのか。心配になる。

 

ガザ戦闘半年 殺戮止める停戦を直ちに(2024年4月7日『熊本日日新聞』-「社説」)

 3万3千を超える人々が命を落とし、人口の半数にあたる約110万人が飢えに直面している。パレスチナ自治区ガザの惨状は、どんな大義をもってしても正当化できるものではない。国連安全保障理事会は3月末、即時停戦を求める決議を初採択した。一刻も早く殺戮[さつりく]を止めなければならない。

 イスラエル軍イスラム組織ハマスとの戦闘開始から、7日で半年を迎えた。ハマスユダヤ教の祭日にイスラエルを奇襲し、約1200人を殺害、200人超を連れ去った。イスラエルはガザを完全封鎖し、ガザ北部から南部へと空爆と地上侵攻を進めてきた。

 街はがれきと化し、国連によれば医療施設の84%、主要道路の92%が破壊され、人口の75%が家を追われている。さらにイスラエルは、避難民約150万人がひしめく最南部ラファへの侵攻を準備している。攻撃に踏み切れば、そこで起きる悲劇は想像を絶する。

 今回の戦闘のきっかけをつくったのはハマスであり、欧米各国も当初はイスラエルを支持した。しかしこの半年で、国際世論は大きく変わった。「ハマス壊滅」を掲げるイスラエルのネタニヤフ政権は民間人の犠牲を顧みることなく、圧倒的な軍事力でガザを踏みにじった。再三にわたって人道的配慮を求められても応じず、国際社会の中で孤立を深めている。

 国連はガザの状況を「ジェノサイド(民族大量虐殺)の域に達した」と非難し、国際司法裁判所(ICJ)もジェノサイド条約違反に当たるかを審理中だ。イスラエルへの武器輸出を止める動きも広がっている。「虐殺」を許さないという国際社会の意思を、イスラエルは重く受け止めるべきだ。

 安保理決議には法的拘束力がある。イスラエルは軍事行動を中止し、ハマスは人質全員を解放しなければならない。両者はエジプトなどの仲介で休戦への間接交渉を再開した。ガザの人々に食料と水を届けることを最優先に、仲介国には粘り強い交渉を望みたい。

 イスラエルの後ろ盾となってきた米国も態度を変化させている。停戦決議では拒否権を行使しなかった。バイデン大統領はネタニヤフ首相に「即時停戦」を要求し、民間人保護の具体策を講じなければ支援を見直すと「最後通告」を突きつけた。ガザで米国の食料支援団体が攻撃され、7人が死亡したことも影響したとみられる。

 人質解放が進まない不満の矛先をそらすように、イスラエル軍はシリアのイラン大使館を攻撃したが、ガザの戦火が中東に拡大することを誰も望んでいない。世界で孤立を深めるイスラエルにとっても賢明な行動とは言えまい。米国の警告を真摯[しんし]に受け止め、停戦を決断すべき時ではないか。

 ガザでの人道活動には、国連パレスチナ難民救済事業機関UNRWA)の関与が欠かせない。日本も一時停止していた資金拠出の再開を決めた。絶望の中にいるガザの人々の命と未来を守る着実な支援を実現し、国際社会の一員として責務を果たしたい。