ガザ戦闘から半年 飢餓と虐殺、容認できぬ(2024年4月8日『山形新聞』-「社説」/『佐賀新聞』-「論説」)
イスラエル軍とイスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザで戦闘を始めてから、7日で半年を迎えた。私たちはこの間、惨劇に慣れてしまっていないか。事態の悪化阻止は、国際社会の責任だ。
きっかけをつくったのはハマスであり責任は重い。昨年10月7日、ガザに近いイスラエルの音楽祭や集団農場を襲撃、約1200人もの罪のない市民を殺害した上、200人を超える人質を組織の拠点であるガザへ拉致した。
被害者には赤ん坊や老人が含まれ、処刑スタイルや強姦(ごうかん)を伴う殺害もあったとされる。1948年のイスラエル建国以来虐げられ続けたパレスチナ人の苦難を考慮しても、到底正当化はできない。
第2次大戦中のユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)以来の悲劇に見舞われたイスラエル側の怒りも理解はできる。しかし圧倒的に優勢なイスラエル軍の半年間に及ぶ攻撃は、ガザ市民ら3万3千人以上の命を奪った。ガザの長期封鎖によって、飢餓すら発生している。
それでもイスラエルの右派市民は「もっと激しい攻撃をしてもいい」と話す。ホロコーストの歴史を胸に刻む国民が、なぜ飢餓を容認できるのか。
後ろ盾である米国がようやく圧力を強めつつあるが、イスラエルのネタニヤフ政権は、ハマスの残党部隊が潜んでいるとされるガザ南部ラファへの侵攻計画を捨てていない。ラファには避難民ら約150万人が密集しており、攻撃に踏み切れば犠牲拡大は不可避だ。
国連人権理事会が任命した特別報告者は、ガザの状況を「ジェノサイド(民族大量虐殺)の域に達した」と指摘した。さらにイスラエル軍が米国を拠点とする食料支援団体「ワールド・セントラル・キッチン」の車両を攻撃し、メンバー7人が死亡する悲劇が起きた。ガザを軍事的に封鎖している以上、食料の安全供給を確保する責任がイスラエル側にあるのは言うまでもない。
世界は飢餓と虐殺を容認しない。事態が悪化すれば、これまで封印されてきたイスラエルに対する何らかの制裁案の検討が浮上する可能性がある。イスラエル政府は、そのことを覚悟すべきだ。
半年間で戦火が拡散したのも深刻な問題だ。ガザ侵攻に反発するイエメンのフーシ派は、紅海とアデン湾で船舶への攻撃を続け、世界貿易の主要ルートに打撃を与えた。レバノンのヒズボラは、イスラエル領内へミサイル攻撃を実行している。いずれも親イランの武装組織だ。
1日にはシリアにあるイランの公館がミサイル攻撃を受け、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の将官らが死亡した。ヒズボラの攻勢に対するイスラエルの報復とみられる。公館はウィーン条約で「不可侵」とされ、攻撃は重大な国際法違反だ。イランが報復を宣言、ガザ情勢は地域を急激に不安定化させている。
イスラエルがこれ以上国際的な孤立を深めれば、ハマスを壊滅させたとしても国家の安全保障は強化されない。国連によればガザの医療施設の84%、主要道路の92%が破壊され、再建の希望は失われつつある。イスラエルとハマスはこれ以上、ガザの未来を踏みにじる消耗戦を続けてはならない。
ガザ戦闘半年 無法許さず停戦を急げ(2024年4月8日『東京新聞』-「社説」)
ガザ危機半年/国際協調し戦火拡大防げ(2024年4月8日『神戸新聞』-「社説」)
パレスチナ自治区ガザでのイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘開始から半年が経過した。ガザ市民の人道危機はますます深刻化し、中東の広範囲に戦火が拡大する懸念も強まっている。国際社会は危機回避の正念場と認識し、一日も早い停戦を実現させねばならない。
今月1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館領事部の建物が空爆され、革命防衛隊の精鋭部隊の司令官ら13人が死亡した。イランはイスラエルの攻撃であると非難し、報復を宣言した。
イランは、レバノンを拠点にイスラエルを越境攻撃する民兵組織ヒズボラや、ガザで戦うハマスを支援している。公館への空爆はこうした動きへの警告とみられる。
しかし、外交施設への攻撃は国際法や条約で禁じられている。非難に値する行為だが、イランがイスラエルへの直接攻撃に踏み切れば、後ろ盾の米国などの介入で紛争に発展し、戦火が拡大しかねない。
中東では米軍と親イラン武装組織間の攻撃も続いており、これ以上緊張を高めてはならない。関係各国には冷静な対応を強く求めたい。
そもそも中東情勢が緊迫しているのはガザ危機の長期化が要因だ。
激しい空爆と地上部隊の侵攻により、ガザ市民の死者は3万3千人を超えた。病院や食料支援に当たるNPOなどへの攻撃も相次ぎ、飢餓が広がっている。イスラエル軍はさらに最南部ラファへの地上侵攻を計画する。避難民ら約150万人が密集する同地で地上戦が始まれば、おびただしい流血は避けられまい。
国連安全保障理事会は先月、即時停戦を求める決議案を初めて採択した。同様の決議案にことごとく拒否権を行使してきた米国もこの時は棄権した。ガザ侵攻を当初支持していた欧州連合(EU)もラファ侵攻には強く反対する。イスラエルは国際社会で孤立しつつあることを自覚するべきだ。
継続的な停戦へ、鍵を握るのは米国の行動だ。ガザ侵攻は米国の軍事支援で成り立っており、バイデン政権は強い態度で臨む必要がある。ハマスせん滅を掲げるイスラエルを支持する強硬姿勢を捨て、停戦交渉を中立的な第三者に委ねるなど思い切った方針転換が欠かせない。
ハマス側も、イスラエルへの越境攻撃が人道危機を招いた事態を重く受け止めるべきだ。市民の保護を最優先に解決策を探り、人質の早期解放も目指してもらいたい。
中東、イスラエルともに良好な関係を維持してきた日本の役割も重要さを増す。「2国家共存」の実現に向け、国際社会との連携を一層強めることが肝要だ。
ガザ戦闘半年 即時停戦を決断すべきだ(2024年4月8日『琉球新報』-「社説」)
パレスチナ自治区ガザでのイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘は、7日で半年となった。ガザ側の犠牲者は3万3千人以上となり、餓死者も出るなど人道危機は深刻の度を増している。これ以上の犠牲を出してはならない。イスラエル、ハマスとも即時停戦すべきだ。
戦闘は昨年10月、ガザを実効支配していたハマスがイスラエルに越境攻撃を仕掛けたことが発端だ。イスラエルは報復空爆を開始し、同月下旬には地上侵攻した。
ハマスの攻撃でイスラエル側の死者は約1200人、多数の民間人が拉致されている。ハマスの「テロ行為」は強く非難されるべきだが、圧倒的な軍事力を持つイスラエルの報復は度を越しているとの指摘もある。この間、ガザの病院や避難所もイスラエル軍の攻撃を受け、死者の70%は女性や子どもとされている。支援物資搬入も厳しく制限され飢餓が広がっている。
ハマス壊滅を掲げるイスラエルのネタニヤフ首相は、強硬路線を崩さず、ガザ最南部ラファへの侵攻を計画している。食料安全保障の危機度を分類した国連の「総合的食料安全保障レベル分類」の報告書によると、ラファ侵攻が実行されれば、ガザの110万人が壊滅的な食料不足に陥る恐れがある。人道危機を拡大させてはならない。
ネタニヤフ氏に対しては、イスラエル国内で反政権デモが広がる一方、国外でも批判の声が強まっている。
これまでイスラエルを支援してきた米国のバイデン大統領は、ネタニヤフ氏との電話会談で、民間人を保護する具体策の発表と履行を要求した。応じなければイスラエル支援を見直すと警告した。ガザの人道状況についても「容認できない」と即時停戦を求めた。米国人を含む食料支援団体のメンバー7人がイスラエル軍の攻撃により死亡したことを受け、バイデン氏は態度を硬化させたとみられる。人道危機の拡大を未然に防ぐことはできなかったか。即時停戦へ向け、バイデン氏はイスラエル側への働きかけを強めるべきだ。
ガザ戦闘を巡って国連安全保障理事会は3月、イスラエルとハマスにラマダン期間中の即時停戦を求める決議案を初めて採択した。これまで停戦を盛り込んだ決議案は米国が拒否権を行使してきたが、今回は行使せず棄権した。米国内でもイスラエルへの批判が高まっていると言える。
戦闘休止と人質解放を巡る交渉がエジプトの首都カイロで行われる見通しだが、先行きは不透明だ。
イスラエル軍は1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館を攻撃した。紛争の拡大も懸念される。イスラエルとハマスの交渉を進展させ、停戦を決断させなければならない。双方が妥協できる環境整備に向け、米国をはじめとする国際社会が問われている。
ガザ戦闘半年 国際世論喚起し停戦を(2024年4月8日『沖縄タイムス』-「社説」)
イスラエル軍とイスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザで戦闘を始めてから7日で半年を迎えた。
この半年の間に、ガザ市民を取り巻く環境は極端に悪化した。住居、水、食料、保健衛生など、あらゆる面で絶望的な状況に追い込まれ、生きる支えすら失われつつあるという。
国連と世界銀行の報告書によると、戦闘が始まってから今年1月までに、医療施設の84%、主要道路の92%が破壊された。
ガザの死者はついに3万3千人を超えた。犠牲者の多くは、保護されるべき子どもたちや民間人である。国連職員やNGO(非政府組織)の巻き添え犠牲も相次いでいる。
砲爆撃だけではない。ガザの人口約220万人の半数が「壊滅的な食料不足」に直面する恐れがあるという。
もはやガザの状況は「ジェノサイド(民族大量虐殺)の域に達した」。国連人権理事会から任命された特別報告者は、報告書でそう警告した。
イスラエルの強硬姿勢に対する反発は世界各地に広がっている。後ろ盾のバイデン米政権はネタニヤフ政権に対する圧力を強めつつある。
イスラエルではハマスとの即時交渉妥結を求める大規模デモが行われた。
状況は確かに変わった。だが、イスラエルは依然としてガザ南部ラファへの地上侵攻の構えを崩しておらず、戦闘終結は見えない。
どうすれば一日も早くおぞましい現実に終止符を打つことができるか。その鍵を握っているのは米国である。
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国連が一貫して国連憲章と国際人道法の立場から人道的停戦を求めてきたのに対し、欧米とりわけ米国の立場はあいまいだ。
イスラエルの「自衛権」を重視する米国は国連の安全保障理事会で4回、拒否権を行使した。停戦が実現できないのはそのためだ。
3月25日の安保理では、米国が棄権したことで、ラマダン(断食月)中の即時停戦を求める決議案が採択された。
こうした姿勢の一方で、バイデン政権はイスラエルに対し、重量2千ポンド(約900キロ)級のMK84爆弾などの武器の追加供与を承認したとされる。
MK84爆弾は殺傷力が強く、人口密集地で使用すれば民間人の犠牲は避け難い。
バイデン大統領はネタニヤフ首相に注文を付ける一方、その裏で武器供与を続けていることになる。典型的な「ダブル・スタンダード(二重基準)」である。
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ネタニヤフ政権は民間人の犠牲を「やむを得ない付随的損害」と見なす傾向が強い。
ハマスによるイスラエルへのテロ攻撃や人質連行は非難されなければならないが、だからといって何の罪もない子どもやその家族までが無差別に殺されていいわけがない。
イスラエルは「自衛権」の正当性を主張するが、ガザ市民の生きる権利や人間としての尊厳は誰が守るのか。
国連や国際社会がその役割を担わなければ、国際規範は崩壊する。今、私たちはその瀬戸際にある。