安保理停戦決(ガザの飢餓危機)に関する社説・コラム(2024年3月27日)

ガザの飢餓危機 子どもの命見捨てるな(2024年3月27日『東京新聞』-「社説」)

 

 イスラエル軍の侵攻が続くパレスチナ自治区ガザで飢餓が懸念されている。同軍が食料などの搬入を妨げ、栄養失調による幼児の死亡例も報告されている。直ちに停戦するか、陸路での人道物資の搬入を保障するよう求める。
 昨年からの戦闘でパレスチナ側の死者は3万2千人を超え、国連児童基金ユニセフ)は1万3千人以上の子どもが死亡したと報告した。戦闘に加え、食料不足が子どもらを直撃。ガザ北部では2歳未満の子の3分の1が深刻な栄養失調に陥っている。
 国連の「総合的食料安全保障レベル分類」は、戦闘が続けば、ガザ北部では5月までに飢餓が発生し、ガザ全体でも7月までに人口の約半分の111万人が飢餓に直面する恐れがあると予想する。
 原因は通行権を握るイスラエルが過剰検査で物資搬入を妨げていることだ。イスラエルは食料不足は国連の能力不足が原因だと主張するが、医療用ハサミを理由に物資の搬入を拒んだ例もある。
 配給所や配給を待つ人々への攻撃も絶えず、イスラエルパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によるガザ北部への食料輸送を認めないと国連に通知した。
 欧州連合EU)高官は「飢餓が戦争の武器」になっていると非難。米国も食料や水の空中投下を始め、海上からの物資搬入に向けて仮設桟橋の建設も計画する。
 しかし、空中投下で直下の人々が死亡する事故が起き、桟橋の稼働も5月初旬とされる。搬入の拡大には陸路に勝る方法はない。
 国際司法裁判所は1月、ジェノサイド(民族大量虐殺)防止にあらゆる対策を講じるようイスラエルに命じており、即座に陸路による搬入拡大に応じるべきだ。
 恒久的停戦が最善策だとしても子どもをはじめ多くの人々の死を座して待つわけにはいかない。
 最大の援助組織であるUNRWAへの資金拠出は、一部職員がイスラム組織ハマスの攻撃に関与した疑惑で各国が停止していたが、カナダやスウェーデンなどが再開した。日本も人道的見地から速やかに拠出を再開すべきである。

 

安保理停戦決議 空文化させてはならない(2024年3月27日『信濃毎日新聞』-「社説」)


 パレスチナガザ地区へのイスラエルの攻撃が始まっておよそ半年。国連の安全保障理事会がようやく、停戦に向けて動いた。

 即時停戦を求める決議を、理事国15カ国のうち日本を含む14カ国の賛成で採択した。常任理事国の米国は反対したものの拒否権を行使せず、棄権した。

 安保理の決議は拘束力を持ち、全ての国連加盟国は順守する義務を負う。イスラエルはただちに攻撃を停止しなければならない。後ろ盾となってきた米国はそれを強く働きかけ、さらなる大量殺りくを止める責任がある。

 米国はこれまで、拒否権を繰り返し発動し、安保理での停戦決議を阻んできた。今回、採択を容認する姿勢に転じた背景には、ガザ地区南端のラファに地上軍を侵攻させる構えを崩さないイスラエルとの確執がある。

 避難民が押し寄せたラファには150万人近い人々がひしめく。侵攻は大虐殺につながるだけでなく、援助物資の搬入を妨げ、飢餓が広がるガザ全体の極限状況をさらに悪化させる。

 米国内を含め国際社会から強く批判する声が上がり、バイデン米大統領も「越えてはならない一線」だとけん制した。しかし、イスラエルは聞き入れず、ネタニヤフ首相は、米国の支援がなくても実行すると言い切っている。

 イスラエルは、パレスチナ人の排除を公言する極右政党の党首が政権の主要な閣僚に就き、強硬論が幅を利かす。世論調査でも、ユダヤ系の7割以上がラファへの侵攻を支持しているという。

 ネタニヤフ氏は汚職の疑惑で訴追されている上、イスラム組織ハマスの戦闘員らによる襲撃を防げなかった責任を問われてきた。ガザへの攻撃を続けることで、退陣の圧力をかわす思惑もある。

 安保理の停戦決議にイスラエルは反発をあらわにし、拒否権を発動しなかった米国を非難した。今週、ラファ侵攻をめぐる協議のため米国入りする予定だった代表団の派遣を取りやめている。

 米政府はあくまで、イスラエルの側に立つことに変わりはないとしている。国連大使は、安保理決議に拘束力はないと述べた。根拠を欠く無責任な発言だ。

 米政府がこの上、イスラエルを擁護する姿勢を取り、安保理決議を空文化させることは認められない。何より米国は軍事援助をやめるべきだ。それによってイスラエルの軍事行動に明確な否を示さなければ、安保理常任理事国としての責任は果たせない。