ガザ戦闘に関する社説・コラム(2024年4月10日)

ガザでNGO職員殺害 人道危機の悪化懸念する(2024年4月10日『毎日新聞』-「社説」)

イスラエル軍のドローンによる空爆で死亡した国際NGO「ワールド・セントラル・キッチン」(WCK)のスタッフ7人=WCK提供・AP

イスラエル軍のドローンによる空爆で死亡した国際NGO「ワールド・セントラル・キッチン」(WCK)のスタッフ7人=WCK提供・AP

 飢えに苦しむ人々に食料を届けたい。人道支援スタッフのそんな願いが爆撃で吹き飛ばされた。起きてはならない事態である。

 イスラエル軍パレスチナ自治区ガザ地区で国際NGO「ワールド・セントラル・キッチン」(WCK)の車両をドローンで空爆し、欧米などの7人が亡くなった。

 イスラム組織ハマスの壊滅を目指すネタニヤフ首相は謝罪する一方、「戦争ではこうしたことが起こる」と述べた。だが、国際人道法は非戦闘員の保護を義務付けており、受け入れられない発言だ。

 WCKは協力団体と共に、1日平均15万食を避難民などに届けていた。今回も配給の日程やルートをイスラエル側に伝え、車両には組織のマークを表示していた。

 イスラエル軍は情報が兵士に連絡されていなかったことを認め、関与した軍の高官2人の解任を発表した。

 自国民を殺害された各国は透明性ある調査を求めている。バイデン米大統領も、民間人保護で対応に改善が見られなければ、イスラエルの後ろ盾としての姿勢を見直す可能性があると警告した。

 戦闘開始から半年が過ぎ、死者は3万3000人を超え、負傷者は約7万6000人に上る。

 食料不足は深刻さを増し、このままでは、7月末までにほとんどの地域が飢饉(ききん)に陥る恐れがある。住民にとって、NGOによる支援は命綱である。

 グテレス国連事務総長は、ガザで殺害された人道支援スタッフが196人に上ると明かし、イスラエルに調査を要求した。

 WCKは職員殺害を受け、当面の活動停止を発表した。人道危機のさらなる悪化が懸念される。

 イスラエルは今回の誤爆後、ガザの北部と南部の検問所開放を決めた。ただ、状況改善のめどは立っていない。

 国際社会からの圧力はかつてなく強まっている。国連人権理事会では、イスラエルへの武器売却の停止を求める決議が成立した。

 国連安全保障理事会は即時停戦を要求する決議を採択したが、イスラエルは順守していない。

 人道危機に終止符を打つため、イスラエルは攻撃を直ちに停止しなければならない。それが民間人被害を防ぐ最も確実な方法だ。

 

ガザ戦闘半年 暴力停止へ働きかけ強化せよ(2024年4月10日『読売新聞』-「社説」)

 パレスチナ自治区ガザでの戦闘が始まってから半年が過ぎたが、ガザを巡る人道状況は悪化する一方である。

 国際社会は、イスラエルイスラム主義組織ハマス双方に対し停戦への働きかけを一層強める必要がある。

 米国のバイデン大統領がイスラエルのネタニヤフ首相と電話で会談し、ガザの市民や支援従事者の安全が確保されない場合、軍事支援を見直す可能性を示唆した。

 米国はこれまで、イスラエルに対して揺らぐことのない支援を約束し、戦闘機や精密誘導兵器などを供与し続けてきた。

 バイデン氏が異例の警告を発したのは、イスラエルによる無差別攻撃で犠牲者が増え続け、後ろ盾である米国への非難が内外で高まることを懸念したからだろう。

 ガザで食料支援などの活動に従事していた米民間団体のメンバー7人も、イスラエル軍誤爆によって死亡した。

 米国内では、与党・民主党や若者の間で即時停戦を求める声が強まっている。秋の大統領選に向けてバイデン氏はそうした動きを軽視できなくなったのだろう。

 戦闘の直接の原因が、ハマスによるイスラエルへの越境攻撃だったとはいえ、イスラエルのガザでの無差別攻撃が国際人道法に反しているのは明らかだ。

 戦闘を継続して対米関係を損なうようなことになれば、イスラエルは国際的に孤立しよう。自らの振る舞いが世界中から非難を浴びていることを自覚すべきだ。

 両首脳の電話会談後、イスラエルはガザ南部から軍を撤収させるとともに、北部の検問所からの食料搬入を認めた。バイデン氏の要求に配慮したようにも見える。

 だがイスラエルは撤収について、将来の作戦の準備のためと説明し、なおガザ南部ラファを攻撃する方針を堅持している。

 120万人の避難民がいるラファを攻撃すれば、 夥おびただ しい数の犠牲者が出ることは避けられまい。

 ガザ保健当局によると、昨年10月以降の死者数は3万3000人を超えている。国連機関の推計では、ガザ住民の半数にあたる約110万人が必要な食料の入手さえ困難で餓死者が出る「壊滅的飢餓」に陥っているという。

 ネタニヤフ氏は、ハマス壊滅と、連れ去られた人質の解放が実現するまで攻撃を続けるとしているが、これ以上、残虐な 殺戮さつりく 行為を続けることは許されない。一刻も早く停戦に応じ、交渉を通じて人質の解放につなげるべきだ。