ガザ戦闘半年に関する社説・コラム(2024年4月6日)

毎日新聞

 

産経新聞

 

ガザ戦闘半年 人命最優先で停戦急げ(2024年4月6日『北海道新聞』-「社説」

 

 昨年10月にパレスチナ自治区ガザでイスラエルイスラム組織ハマスが大規模な戦闘を始めてから、あすで半年となる。
 ハマスが人質130人の拘束を続ける中、イスラエルは3万3千人以上を殺害した。大半は女性や子どもだ。難民キャンプや病院も攻撃し、死者は今世紀の紛争で最速のペースで増えているという。
 民間人への攻撃は非人道的であり、国際法違反だ。
 にもかかわらずイスラエルは虐殺をやめない。そのうえガザ最南部ラファへの侵攻を計画している。住民220万人のうち150万人が密集するラファでの軍事作戦は被害を桁違いに大きくする。
 またガザを封鎖しているため物資を搬入できない。飢餓が起きるなど人道状況は悪化する一方だ。
 イスラエルは一刻も早く攻撃をやめ、ハマスと恒久的な停戦を実現しなければならない。
 米国などの仲介で戦闘休止を巡る交渉は続くが、難航している。
 一方で、国連安全保障理事会イスラム教のラマダン(断食月)期間中の即時停戦を求める決議案を採択した。米国が拒否権を行使しなかったためで、停戦を求める決議は初めてだ。
 安保理決議には法的拘束力がある。イスラエルハマスは決議の重みを認識する必要がある。
 また国際司法裁判所は1月の仮処分でイスラエルに、ジェノサイド(民族大量虐殺)を防ぐあらゆる措置を講じるよう命じた。先月にはガザの住民に食料などの緊急支援物資を届けるよう命じた。
 イスラエルは従うべきだ。
 ガザの食料不足は深刻だ。国連によるとガザの半数の110万人に「壊滅的な飢餓」のリスクがあり、餓死者が続出している。
 イスラエルは米国の食料支援団体の車両を攻撃し、米英豪などのスタッフ7人が死亡した。バイデン米大統領イスラエルのネタニヤフ首相との電話会談で非難し、民間人保護を急ぐよう訴えた。
 これ以上罪のない一般市民を犠牲にしてはならない。
 日米などは国連パレスチナ難民救済事業機関UNRWA)の職員がハマスによる奇襲に関与したとするイスラエルの主張を受け、1月に資金拠出を停止した。
 しかし国際社会などから非人道的との非難を受けて、欧州各国に続き日本も再開を決めた。
 人道危機を回避し、さらには停戦の実現へ向けて、日本をはじめ国際社会はいっそうの外交努力を尽くすことが欠かせない。

 

飢餓、虐殺の消耗戦やめよ/ガザ戦闘半年(2024年4月6日『東奥日報』-「時論」)


 イスラエル軍イスラム組織ハマスが、パレスチナ自治区ガザで戦闘を始めてから7日で半年を迎える。これを機に問いたい。私たちはこの惨劇に慣れてしまっていないか。事態の悪化阻止は、国際社会の責任だ。

 きっかけをつくったのはハマスであり責任は重い。昨年10月7日、ガザに近いイスラエルの音楽祭や集団農場を襲撃、約1200人もの罪のない市民を殺害した上、200人を超える人質を組織の拠点であるガザへ拉致した。

 被害者には赤ん坊や老人が含まれ、処刑スタイルや強姦(ごうかん)を伴う殺害もあったとされる。1948年のイスラエル建国以来虐げられ続けたパレスチナ人の苦難を考慮しても、到底正当化はできない。

 第2次大戦中のユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)以来の悲劇に見舞われたイスラエル側の怒りも理解はできる。しかし圧倒的に優勢なイスラエル軍の半年間に及ぶ攻撃は、ガザ市民ら3万3千人以上の命を奪った。ガザの長期封鎖によって、飢餓も発生している。

 それでもイスラエルの右派市民を取材すると「もっと激しい攻撃をしてもいい」とすら話す。世論調査でもパレスチナに対する人命軽視の傾向が浮かぶ。ホロコーストの歴史を胸に刻む国民が、なぜ飢餓を容認できるのか。

 後ろ盾である米国がようやく圧力を強めつつあるが、イスラエルのネタニヤフ政権は、ハマスの残党部隊が潜んでいるとされるガザ南部ラファへの侵攻計画を捨てていない。ラファには避難民ら約150万人が密集しており、攻撃に踏み切れば犠牲拡大は不可避だ。

 国連人権理事会が任命した特別報告者は、ガザの状況を「ジェノサイド(民族大量虐殺)の域に達した」と指摘した。さらにイスラエル軍が食料支援団体「ワールド・セントラル・キッチン」の車両を攻撃し、メンバー7人が死亡する悲劇が起きた。ガザを軍事的に封鎖している以上、食料の安全供給を確保する責任がイスラエル側にあるのは言うまでもない。

 世界は飢餓と虐殺を容認しない。事態が悪化すれば、これまで封印されてきたイスラエルに対する何らかの制裁案の検討が浮上する可能性がある。イスラエル政府は、そのことを覚悟すべきだ。

 半年で戦火の拡散も深刻化した。ガザ侵攻に反発するイエメンのフーシ派は、紅海とアデン湾で船舶への攻撃を続け、世界貿易の主要ルートに打撃を与えた。レバノンヒズボラは、イスラエル領内へミサイル攻撃を実行している。いずれも親イランの武装組織だ。

 1日には、シリアにあるイランの公館がミサイル攻撃を受け、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の将官らが死亡した。ヒズボラの攻勢に対するイスラエルの報復とみられている。公館はウィーン条約で「不可侵」とされ、攻撃は重大な国際法違反だ。イランが報復を宣言するなど、ガザ情勢は地域を急激に不安定化させている。

 イスラエルが国際的な孤立を深めれば、ハマスを壊滅させたとしても国家の安全保障は強化されない。国連によればガザの医療施設の84%、主要道路の92%が破壊され、再建の希望は失われつつある。イスラエルハマスはこれ以上、ガザの未来を踏みにじる消耗戦を続けてはならない。

 

ガザ戦闘半年 安保理決議に従い停戦を(2024年4月6日『西日本新聞』-「社説」) 

 

 死者は3万人を超えた。食料や医療が枯渇し、人道危機は深刻の度を増す。交渉中の休戦を実現し、一日も早く戦火を終息させたい。

 パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍イスラム組織ハマスの戦闘が始まって、あすで6カ月を迎える。

 戦火はやまぬばかりか、拡大する恐れも出てきた。イスラエルの隣国シリアにあるイラン大使館の建物が1日に空爆を受け、イラン革命防衛隊の将官や市民が死亡した。イランの最高指導者ハメネイ師はイスラエルの犯罪と断じ、報復を宣言した。

 ハマスを支援するイランが参戦する事態は絶対に阻止しなければならない。そのためにもガザでの戦闘を早く止める必要がある。

 停戦を求める国際社会の声は高まっている。国連安全保障理事会は3月、イスラエルハマスに即時停戦を求める初の決議案を採択した。

 決議案には安保理の理事国15カ国のうち14カ国が賛成した。過去4度にわたり、拒否権を行使して停戦決議案を葬り去った米国は、棄権して採択を黙認した。

 イスラエルの後ろ盾である米国も、国際社会の厳しい目を意識せざるを得なくなったのだろう。

 安保理決議に従うのは国連加盟国の責務だが、イスラエルは強く反発し、無視を決め込むようだ。国際社会からの非難を一顧だにせず、ガザ最南部ラファへの地上侵攻を計画している。

 ラファには逃げ場を失った約150万人の避難民が密集する。攻撃が開始されれば、多数の避難民の命を危険にさらすことになる。

 エジプトなどの仲介で戦闘休止に向けた双方の間接交渉が再開されたのは、ラファ侵攻間近とみられるぎりぎりのタイミングだった。

 休戦案は、6週間の戦闘休止期間にハマスが人質40人を解放するなどの内容という。ハマスは恒久停戦やイスラエル軍の撤収を要求している。イスラエルは休戦後の戦闘再開を主張しており、双方の溝は深い。

 ガザ市民の命を救うため、仲介国には粘り強い交渉を望む。安保理決議の採択で国際社会と協調した米国は、さらに強い姿勢でイスラエルを説得すべきだ。

 ハマスの決断も不可欠だ。停戦を実現したいなら、100人を超す人質全員を解放しなければならない。

 ガザはイスラエルに補給路を制限され、子どもが飢えや栄養失調に苦しんでいる。現状の改善に国際社会の一層の努力を求めたい。

 日本はガザを含むパレスチナの難民を支援する国連パレスチナ難民救済事業機関UNRWA)に対し、資金拠出の再開を決めた。

 日本政府は最大の拠出国である米国にも再開を促すべきではないか。同盟国として、戦闘終結へ積極的に動くように働きかけてもらいたい。

 

ガザ戦闘半年 飢餓と虐殺、容認しない(2024年4月6日『佐賀新聞』-「論説」)

 イスラエル軍イスラム組織ハマスが、パレスチナ自治区ガザで戦闘を始めてから7日で半年を迎える。これを機に問いたい。私たちはこの惨劇に慣れてしまっていないか。事態の悪化阻止は、国際社会の責任だ。

 きっかけをつくったのはハマスであり責任は重い。昨年10月7日、ガザに近いイスラエルの音楽祭や集団農場を襲撃、約1200人もの罪のない市民を殺害した上、200人を超える人質を組織の拠点であるガザへ拉致した。

 被害者には赤ん坊や老人が含まれ、処刑スタイルや強姦(ごうかん)を伴う殺害もあったとされる。1948年のイスラエル建国以来虐げられ続けたパレスチナ人の苦難を考慮しても、到底正当化はできない。

 第2次大戦中のユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)以来の悲劇に見舞われたイスラエル側の怒りも理解はできる。しかし圧倒的に優勢なイスラエル軍の半年間に及ぶ攻撃は、ガザ市民ら3万3千人以上の命を奪った。ガザの長期封鎖によって、飢餓すら発生している。

 それでもイスラエルの右派市民を取材すると「もっと激しい攻撃をしてもいい」とすら話す。世論調査でもパレスチナに対する人命軽視の傾向が浮かぶ。ホロコーストの歴史を胸に刻む国民が、なぜ飢餓を容認できるのか。

 後ろ盾である米国がようやく圧力を強めつつあるが、イスラエルのネタニヤフ政権は、ハマスの残党部隊が潜んでいるとされるガザ南部ラファへの侵攻計画を捨てていない。ラファには避難民ら約150万人が密集しており、攻撃に踏み切れば犠牲拡大は不可避だ。

 国連人権理事会が任命した特別報告者は、ガザの状況を「ジェノサイド(民族大量虐殺)の域に達した」と指摘した。さらにイスラエル軍が食料支援団体「ワールド・セントラル・キッチン」の車両を攻撃し、メンバー7人が死亡する悲劇が起きた。ガザを軍事的に封鎖している以上、食料の安全供給を確保する責任がイスラエル側にあるのは言うまでもない。

 世界は飢餓と虐殺を容認しない。事態が悪化すれば、これまで封印されてきたイスラエルに対する何らかの制裁案の検討が浮上する可能性がある。イスラエル政府は、そのことを覚悟すべきだ。

 半年で戦火の拡散も深刻化した。ガザ侵攻に反発するイエメンのフーシ派は、紅海とアデン湾で船舶への攻撃を続け、世界貿易の主要ルートに打撃を与えた。レバノンヒズボラは、イスラエル領内へミサイル攻撃を実行している。いずれも親イランの武装組織だ。

 1日には、シリアにあるイランの公館がミサイル攻撃を受け、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の将官らが死亡した。ヒズボラの攻勢に対するイスラエルの報復とみられている。公館はウィーン条約で「不可侵」とされ、攻撃は重大な国際法違反だ。イランが報復を宣言するなど、ガザ情勢は地域を急激に不安定化させている。

 イスラエルがこれ以上国際的な孤立を深めれば、ハマスを壊滅させたとしても国家の安全保障は強化されない。国連によればガザの医療施設の84%、主要道路の92%が破壊され、再建の希望は失われつつある。イスラエルハマスはこれ以上、ガザの未来を踏みにじる消耗戦を続けてはならない。(半沢隆実)