共同親権の導入 周知と準備に万全を尽くせ(2024年5月30日『読売新聞』-「社説」)

 離婚後の子供の親権は父母のどちらか一方が持つという、長年の常識が変わることになる。政府は、社会の混乱を招かないよう、準備に万全を尽くすことが重要だ。
 離婚後の父母双方に親権を認める「共同親権」の導入を柱とする改正民法などが国会で成立した。現在の「単独親権」を77年ぶりに見直し、父母が合意すれば共同親権を選べるようにする。2026年度までに施行される。
 既に離婚して単独親権になっている場合でも、家庭裁判所に申し立てて認められれば、共同親権に変更できるようになるという。
 親権は、親が子供の世話や教育、財産管理を行う権利であり、義務でもある。だがこれまでは、親権のない親は子育てに関われないという批判があった。
 共同親権の導入によって、父母双方が子育てに責任を持つようになり、子供の利益が確保されるのであれば、その意義は大きい。
 共同親権を選んだ父母は、子供に関する事柄を原則として双方で決める。ただ、習い事などの「日常の行為」や、緊急手術など「急迫の事情」がある場合は、一方の親だけで決められるという。
 しかし、その線引きは明確ではない。政府は、わかりやすい指針を作り、周知に努めてほしい。
 懸念されているのは、虐待やDV(家庭内暴力)に伴う離婚だ。DVなどの加害者が親権を得て、強引に被害者側と接触するような事態は避けねばならない。
 DVなどの恐れがある場合は、家裁が単独親権を選択することになっている。家裁の役割は重要だが、裁判官や調査官は多くの案件を抱えている。この状況で、複雑な家庭事情を適切に理解し、判断できるだろうか。
 裁判所は、親子関係に詳しい心理学の専門家らとも連携し、体制を拡充することが不可欠だ。
 改正法には、別居している親に養育費を請求できる「法定養育費」制度が新しく盛り込まれた。家裁が調停手続きの際、親子の面会交流を促せる規定も設けられた。
 海外では離婚時、養育費や面会交流を法的に義務づける国がある。一方、日本では取り決めがないまま離婚し、養育費の不払いや、子供に会わせないといったトラブルになる例が絶えない。こうした状況を改めることが急務だ。
 年に約18万組が離婚し、その半数に未成年の子供がいる。夫婦関係の解消後も、親子関係は一生続く。子供の幸せを最優先に考えた制度にすることが大切だ。