離婚後共同親権が成立 早急に家裁の体制強化を(2024年5月24日『河北新報』-「社説」)

 強い懸念を残したまま、離婚後の共同親権を可能とする改正民法が成立した。2026年までに施行される。別れた後も父母が負う義務や権利を明確化する狙いがあるが、法に実効性を持たせる体制は不十分だ。家庭裁判所の機能強化など、早急に取り組むべき課題は多い。

 改正法は婚姻の有無にかかわらず、父母が「子の利益」のために協力することを明記。離婚後は父母どちらかの単独親権とする規定を変え、父母の協議で単独親権か共同親権の一方を選ぶようにした。

 意見の対立時や裁判離婚は家裁が判断する。すでに離婚した夫婦も共同親権への変更を申し立てることができる。

 共同親権を巡り、推進派は導入が親権争いでの「連れ去り」や離別した親子の断絶を防ぐと主張。一方、子どもへの虐待やドメスティックバイオレンス(DV)が原因で離婚した人を中心に「連れ去りではなく避難だ」と反対が広がった。

 法相の諮問機関、法制審議会の家族法制部会でも、DV防止法が「加害者から逃げること」を前提に制度設計された経緯を踏まえ、共同親権が被害の継続をもたらすとの意見が出た。

 こういった声を受け、改正法には虐待やDVの恐れがあれば、家裁が単独親権とする規定が盛り込まれたが、密室での行為は立証が難しい。慎重な対応が求められる。

 法施行後は家裁の負担が格段に増すとみられるが、裁判官や調査官の不足がかねて指摘されている。司法統計によると、22年に全国の家裁が受理した面会交流調停の申し立ては約1万3000件と、10年間で3割増えた。家事事件全体も増加傾向にあり、審理期間は長期化している。

 最高裁は「人的、物的体制の整備に努める」とするが、人材育成には時間がかかる。具体的な解決策が示されないままでは、当事者の不安は募るばかりだ。

 改正法にはこのほか、離婚時に取り決めがなくても別居親に最低限の支払いを義務付ける「法定養育費」の創設も盛り込まれた。他の債権者に優先する「先取特権」を請求権に付与し、差し押さえをしやすくした。

 厚生労働省によると、養育費を受け取っている母子世帯は21年に28・1%。共同親権が支払いを促すという見方もあるが、養育費は親権の有無を問わず、親に支払い義務がある。離婚時の取り決めを義務化し、請求手続きを支援するなど「逃げ得」を許さない仕組みを作るべきだ。

 法改正は離婚後の親子関係に大きな影響を及ぼす。「子の利益」を最優先とし、健やかな成長を支えるために、どんな支援が必要か。施行5年後の見直し規定が盛り込まれたが、根強い懸念を払拭するためにも不断の検証と改善が欠かせない。