「共同親権」成立 慎重運用が求められる(2024年5月18日『北海道新聞』-「社説」)

 離婚後も父母双方が親権を持つ共同親権の導入を柱とする改正民法などが参院で可決、成立した。公布後2年以内に施行される。
 離婚する父母は協議して共同親権か単独親権かを選ぶ。折り合えなければ家庭裁判所が「子の利益」の観点から判断する。既に離婚した父母も対象となる。
 離婚後の親権を見直すのは77年ぶりで、単独親権のみだったそのあり方が大きく変わる。
 ただ、一方の親からドメスティックバイオレンス(DV)や子への虐待を受けてきた側には、共同親権では離婚後も被害が続くのではないか―との懸念が根強い。
 特に不安視されるのが、父母が合意しなくても家裁の判断で共同親権となる可能性があることだ。
 被害者側に寄り添い、子の幸せを最優先にした細心かつ慎重な運用が何より求められる。
 政府と最高裁は、当事者の利益や安心安全が損なわれていないか不断に検証し、問題があれば見直しをためらってはならない。
 親権は、子の世話や教育、財産管理などを行う権限であり義務でもあるとされている。
 父母は離婚に際し、子が十分な支えと愛情を受けて健やかに成長するための方策について、冷静に話し合いを尽くす。その上で双方が協力し親権を行使する―。
 子にとって望ましい形だろう。
 問題になるのは、父母が話し合える関係になく、共同か単独かの合意が難しいケースである。
 問われてくるのが、家裁が適切に対応できるかどうかだ。
 新制度では、DVの恐れなどがあれば家裁は必ず単独親権としなければならないと定められた。
 潜在しがちなDVを見極める能力も求められよう。合意のない父母に共同親権を認め、一方の支配から逃れようとしていた側に苦痛を強いることは許されない。
 過去にさかのぼって共同親権に変更できる仕組みとしたことに、不安を覚える人もいるだろう。
 機微に触れる作業を家裁が担うには、すでに膨大な数の審判や調停に追われている現状では厳しいと言わざるを得ない。
 最高裁は、家裁の体制強化と職員の専門性の向上を着実に進める必要がある。
 今回の改正では、離婚時の取り決めがなくても一定額を請求できる法定養育費制度も創設された。
 離婚した母子世帯で養育費を受け取っているのは3割にとどまっているのが現状だ。困窮の解消につなげていかねばならない。