高齢者が一人になった時、思わぬ問題が起きることがあります。縁遠くなっていても家族に頼るべきなのか。日本総研の岡元真希子副主任研究員に聞きました。【聞き手・須藤孝】
要介護者の自宅を訪問して食事を用意するヘルパー
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――一人暮らしの高齢者は増えていきます。
岡元氏 高齢者の一人暮らし自体が問題なのではありません。子どもと同居したいと考える人も減っています。一人暮らしでも安心して暮らせることが大切なのであって、無理に同居を勧める必要はありません。
――頼れる親族がいない人が暮らしやすい社会ではありません。
◆健康で自立した生活をしている時は一人暮らしでも問題は起きないのですが、支援が必要な状態になると、遠方でもまず親族を探してなんとかしてくださいという感覚が、行政にも、医療・介護事業者にもまだあるように思います。
◇ほかに問題が無くても
――例外ではなくなりつつあります。
◆これまでは一人暮らしの高齢者のなかでも、経済的に厳しいなどの問題を抱えている人に焦点が当たりがちでした。これからは、現役時代には特に問題がなく、経済的にも自立していた人が高齢になった時のことも考えなければなりません。なにかあった時に、家族がいないというだけで、突然、いろいろな問題がおきます。
――行政の役目は何でしょう。
◆65歳以上の一人暮らしの方を全戸訪問する自治体もありましたが、高齢者が増えた今は難しくなってきています。行政が直接やることには限界があります。
入院時に自宅に身の回りのものを取りに行くなど細かな対応は家族がやってきました。家族がいない、あるいはいても支援ができない場合にどうするかという調整が必要になっています。
入院した時に家まで入れ歯や補聴器を取りに行くような、家族代わりの支援を、行政職員やケアマネジャーが頼まれてやってしまっている現状があります。いつまでも続けられることではありません。
◇現場の善意では続かない
――現状では、現場の善意に頼っているところがあります。
◆毎回、「例外」で乗り切っているので、問題が見えにくくなっています。たとえば、おカネの管理は必要なことですが、リスクがあります。今の状況では、見過ごせない人が善意でやむを得ずやっている場合も多いのです。
――家族が担っていた部分をもう少し、ということでしょうか。
◆今回の介護報酬改定では、特別養護老人ホームの入所者で人工透析が必要な場合の通院送迎に、介護報酬が新設されました。通院が必要な人は、付き添いができる家族がいないことを理由に施設が入所を断る場合があるからです。
介護報酬がつくことは、家族ではなく、職員が送迎するということですから、家族代わりを介護保険で引き受けましょう、という例です。
◇家族はどこまで
――家族がどこまで背負うべきかは課題です。
◆病気や障害、生活費の不足などのリスクに個人や家族単位で備えることには限界があります。社会全体で支え合うのが社会保障の役割です。家族がいてもいなくても安心して暮らせるように、みなで社会保険料を拠出しています。また、家族がいてもすべて家族にやってもらう前提ではないはずです。
――社会で担う範囲を広げるべきだということですか。
◆家族が担ってきた細かな支援を社会保険でみるようにすれば、家族がいない人はお断り、ということは減るでしょう。しかし、給付を増やせば保険料はあがります。
頼れる家族のいない人が増えるなかで、社会全体で費用を負担するセーフティーネットをどこまでの範囲にするかは、簡単ではありません。(政治プレミア)