店先に並んだ野生の山菜から基準超えの放射性セシウム 原発事故13年、まだかなわない「出ないでくれ」の祈り(2024年7月5日『東京新聞』)

 
 東北地方の直売所などで売られていた野生の山菜の一部から、東京電力福島第1原発事故後の食品基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超える放射性セシウムが今年も検出された。独協医科大の木村真三准教授(放射線衛生学)の調査で分かった。事故から13年が過ぎても、放射能汚染は暮らしの近くに潜む。(大野孝志)

食品基準 放射能に汚染された食品による体内の汚染をできるだけ避けるため、食品衛生法で濃度の基準値を定めている。福島第1原発事故を受け、現在の規制値は一般食品で1キロ当たり100ベクレル、乳児用食品と牛乳は50ベクレル、飲料水10ベクレル。計算上は規制値の食品を1年間毎日食べ続けても、一般人の年間被ばく限度の1ミリシーベルトを下回る。

◆出荷制限ない地域のものも

 原発事故の影響の広がりを調べるため、木村准教授は毎年春~初夏、東北地方の道の駅や直売所、市場などを無作為に巡り、野生の山菜を購入。同大国際疫学研究室福島分室(福島県二本松市)にあるゲルマニウム半導体検出器で、1件当たり8時間かけて測っている。3年の予備調査後、2020年から始めた調査は5回目。
無人販売所でフキを買う木村准教授=岩手県内で

無人販売所でフキを買う木村准教授=岩手県内で

 今年は6月末までに測った245件の3%弱、7件が基準値を超えた。6月に岩手県一関市の産直店で買った宮城県栗原市産と表示のワラビで、1キロ当たり178.8ベクレルを検出。岩手、宮城、山形、福島県内で購入した山菜でも112.3~142.4ベクレルを検出した。山形県産のコシアブラ以外は、表示された産地に出荷制限はかかっていない。

◆葉から土、植物内で濃縮

 野生の山菜を管轄する林野庁特用林産対策室は取材に「国の指針に基づき、各県で山菜の状況をモニタリング(監視)する。特に野生は管理が難しく、地元の事情を理解している各県が計画を立て、必要に応じて検査している」とした。
 木村准教授のこれまでの調査で基準値超の山菜は各年1~5件あり、5回の平均は1.4%。売れば食品衛生法違反となるため、販売地の県担当部署に連絡している。「セシウム半減期が30年と長い上、吸収した葉が落ちて積もり、土から山菜に移り濃縮される。汚染は広く薄く残り、危険は続く」と警戒する。

◆販売は栽培したものが中心に

道の駅店頭に並ぶワラビ。ラベルに「栽培」と書かれた物しかなかった(一部画像処理)=群馬県内で

道の駅店頭に並ぶワラビ。ラベルに「栽培」と書かれた物しかなかった(一部画像処理)=群馬県内で

 4年前、直売所で売ったワラビが基準値を超えた群馬県内の道の駅では現在、山菜を採った人が少し離れた地元JAに持ち込んで検査し、数値を確かめてから売る。手間がかかり、店で扱うのは栽培した山菜が中心に。店頭に並んでいたワラビとフキも栽培だった。
 「地元で採れる山菜は住民の生活の糧で、店の魅力も高める。売れないのは苦しい」。直売所店長の篠原充さん(38)が語る。駐車場には東京都内を中心に県外ナンバーの乗用車やバスが並ぶ。「原発事故の影響がなくならない。行政には、手軽にできる無料の検査や、山菜を採取できる代替地の用意といった対策を取ってほしい」と願う。

◆市場や無人販売、暮らしの糧が

 盛岡市内の市場では、新鮮なワラビやウドなど野生の山菜が並んでいた。売っていたお年寄りに「どこで採ったの?」と聞くと「あの山だ」と指をさす。岩手県内の国道沿いでは無人の小屋で「各100円」の手書きの札とともにフキを売る。山菜の販売が暮らしに密着していた。
 東北各地を車で巡り、購入と測定を続ける木村准教授が言う。「売る人の顔を思い浮かべると『セシウムが検出されないでくれ』と祈らずにいられない」