「核のごみ」は青森・むつ市へ、生まれた電力は首都圏へ…使用済み核燃料の「中間貯蔵」が始まろうとしている(2024年7月5日『東京新聞』)

 
 各原発で保管される使用済み核燃料。容量の上限に近づく原発もある中、青森県むつ市で「中間貯蔵」が始まろうとしている。使用済み核燃料を持ち込み、再処理まで一時保管する試み。昨夏に山口県上関町でも浮上したが、むつで具体化すると原発敷地外で初の中間貯蔵となる。ただ地元には、最終処分場になる危惧がある。さらにいえば、持ち込むのは東京電力柏崎刈羽原発の分。首都圏の人々も無関心でいられない。(宮畑譲、西田直晃)

◆「核のごみ捨て場にしないで」住民の不安

 「(核燃料サイクルの)政策の実現性はない。下北半島を核のごみ捨て場にしない。搬入に反対する」「(中間貯蔵施設からの)搬出先が不明確。到底、安心できない。最終貯蔵させない条例をつくってほしい」
 中間貯蔵計画を巡り、3日に地元のむつ市内で開かれた住民説明会。参加者からこんな意見が出た。
 会には中間貯蔵施設の運営会社や県、経済産業省東京電力の担当者らが説明に参加。住民が紙に書いた質問に応答する形式で進み、終盤に口頭での質疑も。いずれも、施設の行く末を案じる意見が相次いだ。
 使用済み核燃料の搬入が予定される中間貯蔵施設は、下北半島にあるむつ市の市街地の北約10キロに位置する。下北半島は建設中の電源開発大間原発東京電力東通原発、運転停止中の東北電力東通原発に加え、六ケ所村で建設中の再処理工場もあり、「原子力半島」とも呼ばれる。

◆26回も完成延期…再処理工場は稼働メド立たず

 中間貯蔵施設は東電と日本原子力発電が出資し、2005年に設立した「リサイクル燃料貯蔵(RFS)」が運営する。RFSは今年7〜9月の間に使用済み核燃料の集合体69体が入った金属製の容器1基の搬入を目指す。今のところは、26年度までに計8基、ウラン重量で96トンを貯蔵する計画になっている。
日本原燃の使用済み核燃料再処理工場=2013年、青森県六ケ所村で

日本原燃の使用済み核燃料再処理工場=2013年、青森県六ケ所村で

 中間貯蔵施設が必要となるのは、核燃料サイクルが行き詰まっているからだ。
 国は使用済み核燃料からプルトニウムやウランを再処理して取り出した上で、混合酸化物(MOX)燃料に加工し、再利用する仕組みを描く。
 しかし六ケ所村の再処理工場は、完成延期が26回に上る。稼働のめどは立っていない。各原発からは使用済み核燃料を搬出できず、貯蔵プールに保管するが、満杯になれば運転できなくなる。そんな事情があり、使用済み核燃料を持ち込み、再処理まで保管する中間貯蔵施設が求められる。

◆「最終処分地になるのでは…という疑問が当然湧く」

 ただ説明会に参加した一人で、脱原発を目指す市民団体「核の中間貯蔵施設はいらない!下北の会」の栗橋伸夫事務局長は「核燃料サイクルの整合性がとれていないことは原発を推進する側も分かっているはず。こんなのはサイクルでも何でもない」と吐き捨てる。
 再処理工場が稼働しなければ、搬入された使用済み核燃料の行き先がなく、中間貯蔵施設が「最終貯蔵施設」となりかねない。
 そのため説明会でも「搬入先が決まらない場合、最終処分地になるのではないかという疑問が当然湧く。最終処分地に絶対ならないという約束をすることができるのか」と質問が上がり「国策に協力することが本当に市民にとって幸せになることだと考えますか」と問いただす訴えも出た。
使用済み核燃料の中間貯蔵施設を巡って開かれた説明会の資料

使用済み核燃料の中間貯蔵施設を巡って開かれた説明会の資料

◆「貯蔵期間50年」その後、どこへ?

 搬入を開始するには、青森県むつ市、RFSの3者で安全協定を結ぶことになっている。協定案では、使用済み核燃料の貯蔵期間は50年とし、終了前には搬出すると定める。
 しかし、3日の説明会では「50年後、どうなるのか不安。再処理工場に運ぶというが、クエスチョンマークだ」「50年を待たずに貯蔵を返上するような考え方をはっきり示してほしい」といった意見が相次いだ。
 栗橋さんも「どこに持っていくか、協定書には書いてない。一番の懸念であるにもかかわらずだ。国策なのだから、法律で定めるべきだ」と憤る。

柏崎刈羽原発の使用済み核燃料が運ばれる予定

 「こちら特報部」が改めてRFSに取材すると「その時に稼働する再処理施設に搬出する。どこになるかは(使用済み核燃料の)所有者の判断」と答えた。
 青森にある中間貯蔵施設だが、その地域に限った話ではない。
 搬入を予定するのは、新潟県にある東京電力柏崎刈羽原発の使用済み核燃料。東京電力は本年度分の詳細な時期について「核物質防護に関わるため、事前に公表できない」として、事後の公表を検討中という。

◆「負担をむつ市になすり付けるだけ」

 柏崎刈羽原発の再稼働に前のめりなのが岸田政権。だが、1〜7号機の使用済み核燃料を保管するプールの貯蔵率は81%に達した。特に再稼働を優先する6、7号機は90%を超えており、新潟県柏崎市桜井雅浩市長は「6、7号機を80%以下にすること」を同意の条件として示している。
 再稼働に慎重な新潟市の中山均市議は「青森の中間貯蔵施設を利用し、再稼働の障壁の一つを取り払いたいのだろう」と推し量る一方、「本質的な問題解決とは程遠い。目の前の使用済み核燃料を消しても、負担をむつ市になすり付けるだけ」と断じる。
 改めて浮かぶのが「負担の構図」だ。

◆「二重、三重のおぞましい構造」

 東京を中心とした首都圏が電力消費地となるのが東京電力柏崎刈羽原発だ。ただ稼働するほどに使用済み核燃料の扱いに困り、中間貯蔵が想定される青森にしわ寄せが及ぶことになる。
 中山氏は「恩恵のない原発が新潟に、今後が疑わしい中間貯蔵が青森に押し付けられる。二重、三重のおぞましい構造だ」と憤りの言葉を口にする。
東京電力ホールディングス本社

東京電力ホールディングス本社

 東京経済大の礒野弥生名誉教授(環境法)は、昨夏に山口県上関町で浮上した中国電力関西電力の中間貯蔵計画に触れ「今回と全く同じ構図」と強調する。

◆「負担が過疎地に転嫁される」

 この計画は、福島第1原発事故後に原発を再稼働させてきた関電が、立地自治体の福井県から迫られた使用済み核燃料の県外搬出を実現するためだった。
 「立地県は使用済み核燃料の存在を嫌がり、負担が過疎地に転嫁される」
 むつ市、上関町の住民がいずれも「最終処分場にされる可能性」を危ぶむことについては「必要な説明や議論を省いており、欺瞞(ぎまん)と受け取られても仕方ない。地元の意見を拾い上げたのか疑問だ」と指弾する。

◆大都市から離れた困窮地域に「犠牲が組み込まれる」

 いびつな負担の構図は、東日本大震災後にも取り沙汰された。
 首都圏に恩恵をもたらすため、福島に原発が立地された一方、「原発事故により、福島が強いられてきた『犠牲』が浮き彫りになった」と東京大の高橋哲哉名誉教授(哲学)は説く。
 「原発に組み込まれる犠牲は、大都市から離れた困窮地域が背負うことになる。関連施設が集中する下北半島はその典型」とも語り、こう続けた。
 「一種の差別構造でもあり、国の経済・エネルギー政策の中で常にリスクを押し付けられている。原発政策全般を根本的に再検討しなければ、局地的な犠牲の強制が繰り返される」

◆デスクメモ

 中山さんが語った「二重、三重のおぞましい構造」という言葉が痛い。首都圏のため、原発を新潟に建て、使用済み核燃料を青森に託す。東京で暮らす一人として「他地域に多大な迷惑をかけてまで原発を稼働させるべきか」と思わずにいられない。消費地の首都圏こそ声を上げねば。(榊)