◆「核のごみ捨て場にしないで」住民の不安
中間貯蔵計画を巡り、3日に地元のむつ市内で開かれた住民説明会。参加者からこんな意見が出た。
使用済み核燃料の搬入が予定される中間貯蔵施設は、下北半島にあるむつ市の市街地の北約10キロに位置する。下北半島は建設中の電源開発大間原発や東京電力東通原発、運転停止中の東北電力東通原発に加え、六ケ所村で建設中の再処理工場もあり、「原子力半島」とも呼ばれる。
◆26回も完成延期…再処理工場は稼働メド立たず
中間貯蔵施設は東電と日本原子力発電が出資し、2005年に設立した「リサイクル燃料貯蔵(RFS)」が運営する。RFSは今年7〜9月の間に使用済み核燃料の集合体69体が入った金属製の容器1基の搬入を目指す。今のところは、26年度までに計8基、ウラン重量で96トンを貯蔵する計画になっている。
中間貯蔵施設が必要となるのは、核燃料サイクルが行き詰まっているからだ。
しかし六ケ所村の再処理工場は、完成延期が26回に上る。稼働のめどは立っていない。各原発からは使用済み核燃料を搬出できず、貯蔵プールに保管するが、満杯になれば運転できなくなる。そんな事情があり、使用済み核燃料を持ち込み、再処理まで保管する中間貯蔵施設が求められる。
◆「最終処分地になるのでは…という疑問が当然湧く」
ただ説明会に参加した一人で、脱原発を目指す市民団体「核の中間貯蔵施設はいらない!下北の会」の栗橋伸夫事務局長は「核燃料サイクルの整合性がとれていないことは原発を推進する側も分かっているはず。こんなのはサイクルでも何でもない」と吐き捨てる。
再処理工場が稼働しなければ、搬入された使用済み核燃料の行き先がなく、中間貯蔵施設が「最終貯蔵施設」となりかねない。
そのため説明会でも「搬入先が決まらない場合、最終処分地になるのではないかという疑問が当然湧く。最終処分地に絶対ならないという約束をすることができるのか」と質問が上がり「国策に協力することが本当に市民にとって幸せになることだと考えますか」と問いただす訴えも出た。
◆「貯蔵期間50年」その後、どこへ?
しかし、3日の説明会では「50年後、どうなるのか不安。再処理工場に運ぶというが、クエスチョンマークだ」「50年を待たずに貯蔵を返上するような考え方をはっきり示してほしい」といった意見が相次いだ。
栗橋さんも「どこに持っていくか、協定書には書いてない。一番の懸念であるにもかかわらずだ。国策なのだから、法律で定めるべきだ」と憤る。
◆柏崎刈羽原発の使用済み核燃料が運ばれる予定
「こちら特報部」が改めてRFSに取材すると「その時に稼働する再処理施設に搬出する。どこになるかは(使用済み核燃料の)所有者の判断」と答えた。
青森にある中間貯蔵施設だが、その地域に限った話ではない。
◆「負担をむつ市になすり付けるだけ」
柏崎刈羽原発の再稼働に前のめりなのが岸田政権。だが、1〜7号機の使用済み核燃料を保管するプールの貯蔵率は81%に達した。特に再稼働を優先する6、7号機は90%を超えており、新潟県柏崎市の桜井雅浩市長は「6、7号機を80%以下にすること」を同意の条件として示している。
再稼働に慎重な新潟市の中山均市議は「青森の中間貯蔵施設を利用し、再稼働の障壁の一つを取り払いたいのだろう」と推し量る一方、「本質的な問題解決とは程遠い。目の前の使用済み核燃料を消しても、負担をむつ市になすり付けるだけ」と断じる。
改めて浮かぶのが「負担の構図」だ。
◆「二重、三重のおぞましい構造」
中山氏は「恩恵のない原発が新潟に、今後が疑わしい中間貯蔵が青森に押し付けられる。二重、三重のおぞましい構造だ」と憤りの言葉を口にする。
東京電力ホールディングス本社
◆「負担が過疎地に転嫁される」
「立地県は使用済み核燃料の存在を嫌がり、負担が過疎地に転嫁される」
むつ市、上関町の住民がいずれも「最終処分場にされる可能性」を危ぶむことについては「必要な説明や議論を省いており、欺瞞(ぎまん)と受け取られても仕方ない。地元の意見を拾い上げたのか疑問だ」と指弾する。
◆大都市から離れた困窮地域に「犠牲が組み込まれる」
いびつな負担の構図は、東日本大震災後にも取り沙汰された。
「一種の差別構造でもあり、国の経済・エネルギー政策の中で常にリスクを押し付けられている。原発政策全般を根本的に再検討しなければ、局地的な犠牲の強制が繰り返される」
◆デスクメモ
中山さんが語った「二重、三重のおぞましい構造」という言葉が痛い。首都圏のため、原発を新潟に建て、使用済み核燃料を青森に託す。東京で暮らす一人として「他地域に多大な迷惑をかけてまで原発を稼働させるべきか」と思わずにいられない。消費地の首都圏こそ声を上げねば。(榊)