週のはじめに考える 「受援力」がつなげる絆(2024年5月19日『東京新聞』-「社説」)

 能登半島地震で被災した石川県には、連休中、多くのボランティアが駆けつけました。支援を積極的に受け入れ、ボランティアと交流する被災者の姿も目にとまりました。
 災害時にがれき撤去や食事の提供などのボランティア活動は、今では定着しています。各地の自治体からの応援職員を受け入れた被災自治体では、さまざまな自治体名が入った防災服姿の職員が集まり、打ち合わせをする光景も多く見られます。
◆助けてと声を上げ頼る
 災害時に支え合うには、「支援力」を磨くだけでは不十分です。支援力を存分に発揮するには、受け入れる側の「受援力」を高めることも大切なのです。「助けてと声を上げる力」「頼る力」と言ってもいいでしょう。
 被災した自治体がほかの自治体からの応援職員を受け入れたり、ボランティアの受け皿となるセンターを現地に設置したりするなど支援を受ける態勢づくりの重要性は浸透しつつあるようです。受援力を目に見える形で具体化した好例です。
 「受援力」という言葉は、被災地がボランティアを受け入れるための考え方として、内閣府が2010年に紹介しました。パンフレットには平時から受援力を高める方法が例示されています。
 生きていると、さまざまな困難に直面します。それを乗り越えるには周囲の支援が欠かせません。それは被災時に限りません。
 社会は、人々が支え合うための知恵を蓄えてきました。暮らしに困窮する人を支援する福祉政策はもちろん、高齢期や病気・けが、失業など働けなくなった際に支えとなる年金や医療、介護、失業給付など公的な社会保険制度は、支え合いの結晶の一つです。
 ただ、公的な支援力にも課題はあります。支援があることを知らなかったり、声を上げる余裕がなくて支援にたどり着けない人たちがいます。だからこそ、頼るための受援力が必要なのです。
 子どもたちの学習支援などに取り組む認定NPO法人「キッズドア」(渡辺由美子理事長)は、困窮や孤立に不安を感じている若者たちを支援する「ヤングサポート事業」を進めています。
 子どもたちへの公的な支援は18歳までを対象とするものが少なくありません。高校卒業後、大学進学や就職をしたものの、学費や生活費の工面、奨学金の返済に追われる若者たちがいます。経済的余裕がない親に相談できず、孤立する若者が「新たな困窮層」になっていると危機感を募らせます。
 キッズドアでは、登録した若者たち(現在約2800人)に食料品を送り、金銭管理やアルバイトなど生活上の知識を学ぶイベントへの参加を呼びかけ、悩みなどの相談にも乗っています。
 若者から声を上げにくい事情に配慮し、最初に食料品を送り、関係を築くことで「受援力」を高めるのです。困難が極まり、身動きできなくなる前に支援につながれば、体調の悪化や退学などを防ぐことができます。
 登録者アンケートによると、キッズドアの支援を受けた経験から公的な支援を受けてもいいと思う人が少なからずいました。
 ある若者からは「学生は自分でその生活を選んでいるから支援を受けることに引け目を感じていたが、辛(つら)いと言っていいんだと思えて救われた」との声も。キッズドアの支援事業が受援力を高めたとも言えます。
 交流サイト(SNS)には、助けを求める人に「自己責任」との批判を浴びせかけ、ますます声を上げられない状況をつくる殺伐とした言論空間が広がります。
 追い詰められた若者たちが誰にも頼れないような社会は、支援力をも弱めていくことでしょう。
◆他人の迷惑許す寛容さ
 支援を受けた人はいずれ支える側にも立つはずです。支えられた体験は人と地域への信頼を高め、社会の絆を強めます。頼ることは弱さの表れではなく、頼られた人の力を引き出す勇気ある行動です。「必ず誰かが助けてくれる」と思える社会を実現し、若者に引き渡す責任が大人にはあります。
 日本では「他人に迷惑をかけるな」と言われて育ちます。でも、インドには「あなたは人に迷惑をかけて生きているのだから、他人の迷惑も許してあげなさい」という教えがあるそうです。
 困ったときには助けを求めることができ、否定もされない。そんな寛容な社会になれば、私たちはより暮らしやすくなるはずです。