高齢化時代の災害 暮らし支える連携強化を(2024年5月1日『毎日新聞』-「社説」)

キャプチャ
倒壊したまま手つかずの家屋のそばを歩く高齢女性=石川県珠洲市宝立町で2024年4月1日午後5時20分、阿部弘賢撮影
 
 被災地における高齢者の避難生活をどのように支えるのか。高齢化が進む日本全体が直面する課題である。
 能登半島地震が発生してから4カ月となる。直撃を受けた奥能登地方は、住民の半数近くを高齢者が占める。地域住民の福祉を支えてきた高齢者施設も大きな被害を受けた。
 石川県輪島市など六つの市町では、90カ所以上の高齢者施設が被災した。「福祉避難所」は6市町で計71カ所の開設が計画されていたが、発災から1週間後に開くことができたのは、わずか10カ所だった。
 福祉避難所は、援助が必要な高齢者や障害者などを受け入れる。
 あらかじめ自治体が福祉施設と協定を結んでいるが、今回は断水や停電、職員の被災などのため多くの施設が対応できなかった。福祉避難所の開設の遅れは、2016年の熊本地震でも指摘された問題だ。
福祉避難所が多数被災
 災害で避難生活を送る高齢者は体調を悪化させやすく、回復が困難なケースもある。健康を維持することができる環境を整え、生活の質を支えるケアを提供することが欠かせない。
 今後起こりうる災害への備えとして、福祉避難所が担う機能を確保する仕組みを整えなければならない。
 たとえば、被災地の施設が軒並み被害を受けた場合を想定し、他の自治体の協力を得る制度だ。高齢者らの受け入れや、応援職員の派遣、食料や生活必需品の提供などを可能にするネットワーク作りが考えられる。
 今回は、各都道府県で組織されている福祉専門職のグループが被災地の高齢者らを支えた。災害派遣福祉チーム(DWAT)だ。
 能登町では、DWATが中心となり、自治体と協議のうえ福祉避難所を開設した。
 認知症の高齢者が、一般の避難所での集団生活にストレスを抱え、体調を崩しているのにメンバーが気づいたのがきっかけだった。町内の公共施設に約30人の高齢者を受け入れ、6人のチームでケアにあたった。事情に詳しい地元の介護職員や看護師らの協力も得て、手厚い援助を実現することができたという。
 DWATは東日本大震災をきっかけに始まり、今回の地震で過去最大規模の約1300人が派遣された。
 災害時には、地元自治体の力だけでは高齢者の避難生活を支えきれない。過疎地ではなおさらだ。被災自治体を応援する取り組みとして、DWATのような専門家の派遣体制を強化する必要がある。
 課題の一つは人材の確保だ。被災者のニーズを把握し、支援につなげる調整役の育成を進めることが重要となる。
 災害弱者の所在や状態に関する情報を国が集約し、関係機関が共有できるようにする取り組みを強化しなければならない。
 医師や看護師、保健師などさまざまな分野のチームとの連携も欠かせない。各チームが強みを生かすことによってニーズを把握できれば、きめ細かな支援につなげることができるだろう。
孤立生まないケア必要
 被災した高齢者の中には、病気などのため避難所での生活が困難な人もいる。在宅避難や車中泊を余儀なくされるケースも多い。
 熊本地震では、災害関連死と認定された218人のうち、70歳以上が169人と約8割を占めた。死亡時の生活環境について調べたところ、「避難所」が10人だったのに対し、「自宅等」が81人に上った。
 在宅避難者らが、孤立して支援から取り残されることを防ぐためには、戸別訪問などによる目配りが必要だ。
 被災自治体が十分に対応できない場合に、専門家チームが機動的に応援できる体制も用意しておきたい。
 能登福祉施設では、利用者の広域避難を実施したところも多い。避難者が戻ったときに速やかに受け入れられるよう、職員の雇用と事業の継続を支援する制度の導入も検討すべきだ。
 甚大な被害が予想される南海トラフ地震や首都直下地震では、多数の災害弱者が出ることが想定されている。一人でも多くの命を守るために、高齢化を見据えた対策を国と自治体の連携によって推進しなければならない。