地球からは「ぼんやりとした白いもの」に見える天の川も…(2024年5月7日『毎日新聞』-「余録」)

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こまばアゴラ劇場の外観=2023年4月、濱田元子撮影
 
 地球からは「ぼんやりとした白いもの」に見える天の川も、実は一つ一つの星の集まりである。「では」と先生は生徒に質問する。「いま、離ればなれに座っているあなたたちは、遠くの星から見れば、どう見えますか?」
平田オリザさんによる舞台「銀河鉄道の夜」の冒頭の一場面だ。2011年、宮沢賢治による児童文学をフランスの子ども向けに舞台作品化。日本語版も全国各地を回る。先月末に東京・駒場の「こまばアゴラ劇場」で上演された
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▲主人公のジョバンニが、友人のカンパネルラの不慮の死をどう乗り越えていくか。隣にある「死」を見つめる賢治のメッセージと共に、遠い星から見ればひとかたまりに見える隣人や、国と国とのことも考えさせる
▲「銀河鉄道の夜」はじめ、「ソウル市民」「東京ノート」といった演劇史に残る平田作品を発信してきた劇場が、今月末で閉館する。1984年に開館し、若手の創作支援の場ともなってきた
▲平田さんの父親が開業し、その後経営を引き継いだ。だが負債が残り、コロナ禍や物価の高騰で「早めの決断」を迫られたという。来年4月には俳優座劇場姿を消す。一観客にとっては寂しいというほかない
アゴラとは、古代ギリシャ都市国家における公共広場だ。そこで市民は活発に議論した。舞台でカンパネルラは先生にこうたずねる。「私たちは一つですか? それとも離ればなれですか?」。そんな問いに思考を巡らせ、意見を交わす。広場としての劇場の存在を改めて思う。