核ごみ文献調査/分断招かぬ丁寧な議論を(2024年5月2日『神戸新聞』-「社説」)

 佐賀県玄海町議会が、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査の受け入れを求める請願について、賛成多数で採択した。同町には九州電力玄海原発がある。原発立地自治体の議会が文献調査に関する請願を採択するのは初めてである。脇山伸太郎町長は5月中に応募の可否を判断する意向を示した。
 これを受け、斎藤健経済産業相は調査の実施を申し入れた。申し入れは北海道神恵内(かもえない)村に続き2例目だ。文献調査を受け入れれば国から最大20億円の交付金が出る。ただ、核のごみは数万年以上、地下深くに埋めることになる。同町のみならず周辺地域の将来に責任を負う問題であり、慎重な判断が求められる。
 請願は、地元の飲食業組合や旅館組合など3団体が提出した。全議員による原子力対策特別委員会での審議は2回のみで、3週間後に採択し翌日に本会議でも採択された。審議が尽くされたとは到底言えない。
 議長を除く町議9人のうち3人が反対した。「町民がほとんど知らないうちに決めるのは問題」と議員の一人は述べる。原発の近隣で暮らす住民は「これ以上の危険を負わせるのか」と反発する。
 調査について、町は住民が納得できるまで説明し、民意に耳を傾けながら丁寧な議論を積み重ねる必要がある。地域の分断を招くような強引な決定は避けねばならない。
 核のごみは、使用済み核燃料の再処理後の廃液をガラスで固めたもので、金属容器に入れて地下300メートル以下の岩盤に地層処分する。処分場選定に向けた調査は3段階あり、文献調査は第1段階に当たる。
 留意すべきは、国が処分の適地を示す科学的特性マップで、玄海町のほぼ全域が「好ましくない特性があると推定される地域」になっている点だ。将来、石炭が採掘される可能性があるためだ。炭鉱にはメタンガス発生の恐れがあるとの専門家の指摘もある。文献調査を行うとしてもあくまで科学に基づき、適地かどうかを厳密に調べてもらいたい。
 地層処分の方針は2000年に決まった。北海道の寿都(すっつ)町と神恵内村が文献調査を受け入れたものの、鈴木直道知事が第2段階の調査に反対する。佐賀県山口祥義知事も原発があることを理由に「新たな負担を受け入れる考えはない」と反対の立場だ。四半世紀近く過ぎても、処分場の選定は先行きが見通せない。
 核のごみを50年間地上で暫定保管し、その間に国民の合意形成を図るという日本学術会議の提言もある。処分の在り方や交付金で誘導する選定方法はこのままでよいのか。政府は再考すべきときにきている。