玄海町の文献調査 実現を期待し見守りたい(2024年4月19日『産経新聞』-「主張」)

 
九州電力玄海原発4号機=佐賀県玄海町

 原子力発電で生じる高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分場探しの第1段階である「文献調査」に向けた動きが佐賀県玄海町で起きている。

 地元の旅館組合など商工3団体から文献調査の受け入れを求める進取的な請願書が町議会に提出されたのだ。

 町議会では17日に原子力対策特別委員会の初回の審議が行われ、約1週間後に次回委員会を開く運びとなった。

 同町には九州電力玄海原子力発電所が立地していることに注目したい。原発を擁する市町村で文献調査に関する動きが出たのは初めてのことである。

 請願書には文献調査に関して「放射性廃棄物の発生原因を有する自治体の責務」や「国への積極的協力」などの文言が入っている。HLWの地下処分場建設が進むフィンランドも建設地が決まったスウェーデン原発を擁する自治体での受け入れだ。エネルギー問題に対する住民の意識の高さが重要な共通項として存在する。

 玄海町の意思を尊重しなければならないのは当然だが、特別委と本会議で採択され、脇山伸太郎町長の同意が得られることを期待したい。

 北海道の寿都町神恵内村では令和2年11月から文献調査が始まったが、後に続く自治体が出現していない。昨夏、長崎県対馬市で動きがあったが、市長の同意が得られなかった。

 HLWをガラス固化体に封じ込めて多重の防護を施し、地下深くの岩盤内に埋設する最終処分の最適地を探すには10カ所前後の文献調査地から絞り込んでいくのが理想とされる。

 北海道の2町村では、次の概要調査への移行が焦点となる段階にある。後続自治体が現れないと最終処分問題が北海道だけの課題となりかねない。それを防ぎ、全国民が自分事としてこの問題を考える機会とするためにも玄海町の商工団体の請願は貴重であり、有意義だ。

玄海町の地下には石炭の存在が推測されているが、マイナス材料にはなるまい。同町内の地質に関する既存の資料を基に適地の有無を判断する文献調査を行う意義は十分にある。

HLW処分の実施主体・原子力発電環境整備機構(NUMO)と経済産業省には町議会での審議に資する諸情報の提供に総力を傾注してもらいたい。