九州電力玄海原子力発電所が立地する東松浦郡玄海町で、地元3団体が高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場選定に関する文献調査の受け入れを求める請願書を町議会に提出した。難問である核のごみ処分について議論をする上で「一石を投じた」意義は否定しないが、一部の請願書の「原発立地自治体の責務」という表現には強い違和感を覚える。過疎地がさらなる核のリスクを自ら背負う義務があるとは言い難い。
核のごみは強い放射線を出し続けるため、国は地下300メートルより深い岩盤に埋める地層処分の最終処分場を国内1カ所に造る計画で、場所の選定を進めている。現在、北海道の寿都町(すっつちょう)と神恵内村(かもえないむら)の2町村が第1段階の文献調査に応じて作業が進み、今年2月、次の段階となる概要調査に進むことが可能とする報告書案が公表された。長崎県の対馬市議会は昨年9月、調査受け入れ促進の請願を採択したが、市長は反対し、応募しなかった。
今回、玄海町議会で文献調査受け入れを求めた請願の審議は、原発立地自治体では初めてとなる。町議10人のうち過半数が賛同する見通しで、全議員で構成する25日の特別委員会、26日の本会議で採択される公算が大きい。これを受けて脇山伸太郎町長がどう判断するかが焦点となる。
請願書は町の旅館組合、飲食業組合、建設業者でつくる防災対策協議会が個別に提出した。東日本大震災を経て、老朽化した玄海原発4基のうち1、2号機が廃炉となり、原発関連の作業員が減って需要が大幅に減り、コロナ禍も重なって経済的打撃を受けている現状を訴えている。
長年、原発産業に依存してきた町は福島第1原発事故後、「脱原発依存」に官民さまざまに取り組んできた。原発関連施設の固定資産税収入などもあり、県内で唯一、国から地方交付税の配分を受けていない不交付団体で、町の財政は比較的安定している。文献調査を受け入れた場合、国から最大20億円が交付される。再び「原発マネー」による経済活性化の方策へと進むのが、長期的に見て地域のためになるのか。原発によらないまちづくりの障壁が何であるかはいま一度検証し、深い議論を望みたい。
玄海町をはじめ、隣接する唐津市も日常的にリスクに向き合っている。原発による電力を生み出し、使用済み核燃料からの「核のごみ」を排出する責任を問われるなら、電力の大消費地である都市部にも受益者として責任の一端はあろう。立地自治体が原発の全てのリスクを背負う義務はなく、これ以上の負担を負わせるべきではないと考える。
最終処分場の選定に関し、山口祥義知事は従来、玄海原発などエネルギー政策で「佐賀県は相当の役割を果たしている」と指摘し、「新たな負担を受け入れるつもりはない」と主張、県内での建設に反対の立場を示してきた。今回も同様の考えを表明している。原発に対する賛否を超えて、知事の考え方は一定支持を得られるのではないか。
核のごみの放射能レベルは時間とともに減少するものの、数万年から10万年は生活環境から隔離する必要があるといわれている。当該世代はもちろん、人類として予測が難しい時間軸である。文献調査受け入れが最終処分場候補地決定とすぐになるわけではない。地震が頻発する日本列島でもある。今回の一石を重く受け止め、長期的に向き合わざるを得ない原発のありようをあらためて考える機会にもしたい。(辻村圭介)