能登半島地震 被災した家屋の解体を着実に(2024年4月26日『読売新聞』-「社説」)

 大きな災害で損壊した家屋を取り壊して撤去する作業は、復興への第一歩である。国は、必要な制度の整備や人的な支援を進め、作業が着実に実施されるよう後押しすべきだ。
 能登半島地震では、多くの家屋が倒壊した。今も大半がそのまま残されており、解体や撤去が思うように進んでいない。
 被災した家屋については、所有者の申請を受けて自治体が代わりに解体と撤去を行う「公費解体」の制度がある。石川県は、公費解体が約2万2000棟に上ると想定しており、これまでに8000棟以上の申請があった。
 しかし、実際に解体が完了したのは9棟にとどまる。被災地では水道の復旧や仮設住宅の建設など今も多くの課題を抱えており、十分に手が回らないのが実情だ。
 壊れた家屋が放置されたままでは、倒壊のほか、悪臭や害虫が発生する恐れもある。解体作業を円滑に進めることが重要だ。
 今後、作業を本格化させていくには、事務手続きを担う自治体職員の確保が欠かせない。
 公費解体は、申請書類の確認などに手間がかかる。解体前には所有者の現地立ち会いも必要だが、今回は遠方への2次避難者や転居者が多く、日程調整にも時間を要している。被災自治体だけでは多くの申請を処理できない。
 環境省は今回、過去の被災自治体から災害対応の経験豊富な職員を集め、能登に派遣している。解体作業は長期に及ぶ見通しだ。継続的な支援に努めてほしい。
 作業員の宿泊場所の確保も大切だ。業務を効率的に進めるには、県内外から多くの作業員を集める必要があるが、現地には宿泊施設や宿舎を建てる土地が少ない。周辺自治体や県は、土地の提供や宿舎探しに協力してほしい。
 住民側からすると、申請手続きが煩雑で、申請したくてもできないという問題もある。
 公費解体には家屋の所有者全員の同意が必要だが、古い家では、所有者の死後も名義が変更されていないケースがある。この場合、相続の権利がある人を全て探し出し、同意を得ねばならない。
 過去の災害では、代表者が宣誓書を書くことで、申請を受け付けることにした自治体もある。国や自治体は、こうした例も参考に、住民がスムーズに申請できる方法を検討してもらいたい。
 熊本地震では、3万5000棟を公費解体するのに2年余りかかったという。長期的な視点に立ち、息の長い支援が必要だ。