水道水のPFAS検査 汚染防止へ明確な指針を(2025年1月9日『河北新報』-「社説」)
「予防原則」に立てば当然の判断だろう。発がん性が懸念される有機フッ素化合物「PFAS」(ピーファス)について、環境省は現行の「暫定目標値」を水道法上の「水質基準」対象に引き上げる方針を固めた。課題は多く、引き続き対策を徹底してもらいたい。
全国の河川などでPFASが検出されたことを巡り、環境省と国土交通省は全国の上水道や簡易水道3755事業を対象とする2020~24年度の調査結果を公表した。24年度は1745事業が検査を行い、約2割の332事業でPFASが検出された。
国の暫定目標値は、PFASの代表物質であるPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム。目標値に近い値を検出した事業も複数あったが、超えたところはなかった。
20~23年度には12都府県の14事業で目標値を超える値が検出された。24年度の検査でいずれも目標値を下回ったのは、各自治体や水道事業者が汚染を確認した水道を別の水源に切り替えるなどの対応を取った結果だという。
社宅など特定の施設に給水する「専用水道」8177件の調査では20年度以降、11都府県の44件で目標値を超える値が検出された。40件は上水道への切り替えや飲用制限などを行い、4件は濃度低減の工事などを計画している。
不安が残る実態も浮かんだ。上水道や簡易水道事業者の約4割がPFASの検査を未実施だった。「周辺環境から考えて汚染の可能性が低い」「検査費用が負担」などが理由という。専用水道に関しては7割以上が調査に回答しておらず、不明点が多い。
水銀やヒ素などと違い、現状ではPFASは水質基準の対象外で検査義務がない。発がん性の疑いをはじめ、環境中や生体内に長く残存する性質などを考えれば甘い運用だったと言わざるを得ない。
環境省は26年4月から水質基準対象に加え、定期的な検査と基準値を超えた場合の水質改善を事業者に義務付ける方針だ。ただ、検査費用は原則事業者の負担で、適正で確実な履行を求める上で障害になる恐れがある。
仮に高濃度の値が検出された場合の対応についても説明が不十分だ。流出源の特定や除去の方法は確立されていない。環境省が昨年11月に公表したPFASの自治体向け対応手引の改訂版にも具体的手法は示されていない。
そもそも、PFASが及ぼす健康被害に関しては科学的知見が十分に得られていない。国は調査研究を一層進めながら、各地の汚染防止に必要な指針や対策を明確に示す必要がある。
水道のPFAS 周回遅れの対応を見直せ(2025年1月9日『西日本新聞』-「社説」)
暮らしに欠かせない水道水は市民の健康に直結する。被害の恐れがある以上、国は先手を打ち対策を講じる責任がある。
発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)について、政府は現行の暫定目標値を水道法上の水質基準に格上げする方針を決めた。
PFASは全国各地の水道や河川、地下水などから検出されている。暫定目標値はそれ以下に抑えることを目指す基準に過ぎず、法的強制力はない。超えても改善は努力義務にとどまる。
格上げ後は、自治体などの水道事業者に定期検査と基準値を超えた場合の改善を義務付ける。2026年4月の施行を想定している。
PFASは水や油をはじき、焦げ付きにくいフライパンや防水スプレーのほか、半導体の製造過程でも使われてきた。自然界では分解されにくく蓄積されやすい。
00年代初めに海外で有害性が指摘されるようになった。代表的なPFOSとPFOAは国際条約で製造や使用が禁止された。原料に使っていた工場、泡消火剤を使用していた米軍や自衛隊の基地などで地下水に染み込み、検出されているようだ。
PFAS対策で日本は周回遅れと言わざるを得ない。暫定目標値はPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)だ。米国の飲料水は、この2種の基準が各4ナノグラムと厳しい。欧州でも厳格化の動きがある。
環境省は暫定目標値をそのまま水質基準に採用する構えだが、妥当なのか十分な説明はない。規制の遅れが被害拡大を招いた過去の公害の反省を踏まえ、対応をためらってはならない。科学的知見の積み上げも急務だ。
国は初めて大規模調査を行い、昨年公表した。給水人口の大半を占める上水道と簡易水道で、検査した水道事業の2割にPFASが検出されたものの、暫定目標値は超えていなかった。以前超えた地域は水源変更などで改善したとみられる。
全国的に発生源が不明な所が多い。発生源の特定手法や改善策について国に指針を求める声がある。速やかに実施したい。検査や改善に多額な費用がかかり、水道料金が上がる可能性もある。国の財政支援も検討すべきだろう。
健康被害への不安も募る。住民の要望があれば血液検査を実施するなど柔軟な対応が求められる。
PFAS規制強化 原因の特定と対策を急げ(2024年12月30日『信濃毎日新聞』-「社説」)
これまで代表的なPFOAとPFOSについて合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)を暫定目標値に定め、超えないよう求めてきた。努力義務としたため検査の実施や結果の公表は事業者によって対応がまちまちだった。
法による義務化で、汚染の実態が把握でき、安全な飲み水の確保につながる。ただ住民の不安が払拭されるわけではない。
基準値は暫定目標値をそのまま採用する。米国の基準値は、2物質それぞれで同4ナノグラムと厳しい。健康影響との因果関係が不十分でも予防を重視し規制を強化する欧米とは、大きな隔たりがある。
汚染が確認された地域で血液検査など住民の健康調査を重ね、50ナノグラムの基準値が妥当か常に検証し、見直していく必要がある。
そもそも排出元や流出した原因を特定し、対策を講じなければ汚染はなくならない。
水や油をはじき熱にも強いPFASは、布製品や食品容器、泡消火剤、半導体製造などで広く使われた。PFOAとPFOSは毒性や蓄積性が確認されたため、既に製造や輸入が禁止されている。
住民が独自に血液検査や現地調査に取り組み、実態や汚染源に迫っている地域は少なくない。
原因の特定や対策についても、政府は指針を示し、住民と自治体が連携して対応できるよう体制を整えていくべきだ。
費用の問題もある。一つの検体で数万円かかるとされる検査費用は、原則事業者の負担になる。水道料金に跳ね返ってくる可能性が高い。水質改善のため新たに水源や送水管の整備が必要になると、地域の負担はさらに膨らむ。
人口が減少する中、水道事業は運営が厳しくなっている。政府の財政支援が欠かせない。
PFAS検査義務化へ 不安に応える「基準」か(2024年12月27日『沖縄タイムス』-「社説」)
県内では米軍基地周辺の地下水や河川などから高濃度のPFASが検出されており、県民の不安は今も続いている。そんな中で、国がやっと重い腰を上げた格好だ。
現在、国は暫定目標値を代表物質のPFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)の合計で1リットル当たり50ナノグラムとしている。同じ値を水道法上の「水質基準」に引き上げる。3カ月に1回の検査を基本として義務付け、2026年4月の施行を目指すという。
これまでは暫定目標値を超えた場合でも水質改善は「努力義務」にとどまった。今回、明確な数値が水質基準として法律に位置付けられ、管理態勢が整備されたことの意義は小さくない。
しかし米国では、飲み水について1リットル当たりのPFOAとPFOSそれぞれ4ナノグラムを基準とするなど、厳しく定められている。ドイツも28年には2物質を含む4種類のPFAS合計で同20ナノグラムを基準とする方針だ。
日本の基準は海外と比べれば緩い。1リットル当たり50ナノグラムが本当に妥当な数値なのか。さらに多くの知見や根拠を集め、積み上げていく必要がある。
広がる不安を払拭し安全に暮らせるよう、改善に向けた議論を進めなければならない。
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義務化される水質検査とPFAS汚染の改善を行うのは、水道事業者である各自治体だ。仮に高濃度で検出された場合、改善には多額の費用が必要となる。数が多いほど金額も跳ね上がる。
基地周辺のPFAS汚染が明らかになって以降、県は水質浄化設備の設置や維持管理などに膨大な費用を費やしている。10年間で約80億円以上が必要になるとも見込んでいる。
負担が足かせとなり、検査が不十分なものに終われば本末転倒だ。生きるために不可欠な水の安全確保を自治体に丸投げにせず、費用負担も含め国の責任としてきちんと取り組むべきである。
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県内では米軍基地に近い本島中部の河川や地下水から高濃度の値が検出されたことで、水源としての利用に不安があるとして取水制限や停止を余儀なくされている。
石破茂首相は改定について、たびたび言及している。汚染原因を特定し根本的な対策を図るには、協定の改定が必要だ。
政府は、発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)について、これまで法的義務のない水質の暫定目標値を法で規制する方針を決めた。水道事業者に水質検査や水質基準値を超えた場合の改善を義務づける。
沖縄の米軍基地周辺で泡消火剤に含まれるPFASの一種が確認されて以降、全国各地でも米軍基地周辺などで検出が相次ぎ問題になっている。これまで規制がなかったPFASが法規制される動きについては一定評価したい。
ただ、施行が2026年4月の見込みで、対応は遅い。さらに基準値は現在の目標値をそのままスライドさせただけで、米国の基準と比較しても緩い規制にとどまる。これでは住民の不安を払拭するに足るものとは言いがたい。
PFASは水や油をはじき、フライパンの塗装や泡消化剤などに広く使われてきた。有害性や環境に蓄積されやすいことから国際的にも製造や使用が禁止されている。
日本政府は20年に、水道水の水質の暫定目標値として、代表物質のPFOSとPFOAの合算で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)と設定した。一方で米国は24年に、2物質それぞれで、検出できる下限値の4ナノグラムと、日本より厳しい基準を定めている。
今回のPFASの法規制化で自治体には水質改善の義務が課せられる。しかし改善のためには発生源の確定と対策を施さなければ、根本的な解決にはつながらない。
12月には防衛省や外務省、環境省などが、米軍横田基地(東京都)からPFASが流出した可能性があるとして基地に立ち入りした。日米共同でサンプリング調査もする。沖縄でも20年の米軍普天間飛行場外への泡消火剤流出と、21年のうるま市の米陸軍貯油施設での流出では県の基地内立ち入りが認められた。
だが他の米軍嘉手納基地などへの立ち入り申請は、日米地位協定により基地の管理権を持つ米軍が拒否する状況が続いている。地位協定本体とは別の環境補足協定は、立ち入り調査の条件として「現に発生した場合」と限定している。補足協定や「運用改善」では事態解決につなげることはできない。地位協定本体の抜本的改定も急務だ。
有害物質などに関する国連特別報告者が沖縄を視察し、PFAS汚染と米軍基地の関連性は明らかだと指摘した。法規制で義務づけられる改善に自治体の予算が費やされ、住民に転嫁されるようなことがあってはならない。発生源責任が追及されるべきだ。
適正な法運用ができるためにも、一日も早く基地内の立ち入りを実現し、地下水の環境調査などを実施していくことが必要だ。
PFASと水道 早急な規制強化が必要(2024年12月17日『北海道新聞』-「社説」)
発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))が全国で検出されている問題で、環境省と国土交通省は先月、全国の水道事業者による調査結果を公表した。本年度に富山県を除く332事業者で検出され、うち7事業者が北海道内だった。
国が定めた安全性の目安となる「暫定目標値」はPFASの代表物質PFOA(ピーフォア)とPFOS(ピーフォス)の合計で水道水1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)だが、いずれもこれを下回った。
ただし安心はできない。全国約3700の事業者のうち、1300余りは2020年度以降、検査を行っていない。
石破茂首相は国会で検査と公表を義務付ける考えを示した。暫定目標値を、より厳しい規制である水道法上の「水質基準」に格上げする方針も示した。
早急に実行し、水道水の安全と安心を確保するため万全を尽くしてもらいたい。
PFASと呼ばれる物質は1万種類以上ある。用途は広く、泡消火剤や界面活性剤、半導体製造などで使われてきた。
だが一部物質が健康に影響を及ぼすことが分かり、中でも毒性が強いPFOAとPFOSは国際的に廃絶対象となった。
やっかいなのは、自然界ではほぼ分解されず、影響が長く続くことだ。岡山県吉備中央町では暫定目標値の28倍を検出したと昨年発表した。水源を切り替えるなどし、現在は目標値を下回っているが、町は長期的に住民の健康調査を行う。
PFASは全国の河川や地下水からも検出されている。
苫小牧市の安平川では今年7月、暫定目標値を超えた。10月のモニタリングでは下回ったが汚染源は特定されていない。
市は千歳川などでPFASを含む水質調査を行っている。
ただ、市とラピダスが結んだ工場排水の水質に関する協定では、PFASを測定項目に入れていない。下水道法で規制項目ではないからだというが、工場内できちんと除去されているか確認する必要があろう。
水道水のPFAS検査 安心できる基準が必要だ(2024年12月13日『毎日新聞』-「社説」)
PFASの飲料水の基準
水道水の安全と安心を確保するには、リスクと向き合い、迅速に対処する姿勢が求められる。
検査対象は、PFASのうち水や油をはじき熱に強い性質を持つ2種類の化学物質だ。発がん性などが指摘され、すでに製造や輸入が原則禁止されている。
食品の包装紙、焦げ付きにくいフライパン、燃料火災向けの泡消火剤などに利用されてきた。各地の米軍基地や工場周辺の河川などから検出報告が相次いでいる。
国は2020年、安全性の目安として、水道水1リットル当たり50ナノグラム以下とする「暫定目標値」を設定した。
20年度以降に目標値を超えたのは1都2府9県の計14事業者だった。今年度は9月末時点で超過は確認されず、環境省の担当者は「水源の変更などが奏功したのではないか」と説明している。
PFASが問題なのは、「永遠の化学物質」と呼ばれるほど分解されにくいためだ。過去の使用分が環境中に残ってしまう。
だが、水銀やヒ素とは異なり、水質基準の対象項目ではなく、検査は任意だ。約4割の事業者は「汚染されているとは考えにくい」「費用負担が重い」などを理由に検査していない。
今年度は目標値を下回っているものの、検出された事業者も333あった。汚染源の大半は特定されず、対策は難しい。今後、新たに検出されたり、目標値を超えたりする可能性もある。
政府は水質基準に格上げし、検査などを義務づけることを検討している。科学的知見に基づき、実効性のある基準となるよう調査研究を強化することも欠かせない。
健康や環境に重大な影響を及ぼす恐れがある場合、因果関係が十分証明されていなくても規制措置を取る「予防原則」が対策の基本である。
日本では高度成長期に公害対策が遅れ、多くの犠牲者を出した。今も健康被害に苦しむ人がいる。その二の舞いとならないよう、政府は検査や除去技術などで事業者を支援しなければならない。
PFAS問題 懸念を拭う対策講じねば(2024年12月12日『山陽新聞』-「社説」)
人々の生活に飲み水の安全は欠かせない。体に悪影響を及ぼす懸念があるならば、対策を講じねばなるまい。
発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)が全国の水道水や河川から検出されている問題で、環境省と国土交通省は水道水の全国調査結果を公表した。2024年度に国の暫定目標値を超えた事例はなかったが、複数の水道事業で目標値に近い数値が検出された。
調査は給水人口が5千人超の上水道、101~5千人の簡易水道など全国3755の水道事業を対象に初めて実施した。20年度から24年度(9月末時点)までの検査状況をまとめており、24年度は1745事業が検査を行い、富山県を除く46都道府県の332事業でPFASが検出された。検査実施の約2割でPFASが確認されたことになる。暫定目標値を下回ったとはいえ、汚染の広がりが改めて裏付けられたと言えよう。
だが、以前の取水源だったダムや沢では引き続き高い濃度が確認され、汚染状態の改善は見通せていない。極めて分解されにくく「永遠の化学物質」と言われるPFASへの対応の難しさを物語っている。同様の事態を生まないためにも国には引き続き全国調査と結果公表を求めたい。
PFASは水や油をはじき、熱に強い特性があり、焦げ付きにくいフライパンや食品包装など幅広く使われてきた。環境中に出ると長期間残留し、人や動物の体内に蓄積する。がんのリスク増加やコレステロール値上昇などとの関連が指摘される。PFASのうち代表的な物質のPFOAやPFOSは有毒性の把握が進み、条約で製造や輸出入などが規制されている。
日本ではPFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)という暫定目標値が20年に定められた。だが、目標値を超えても水質改善などの対応は努力義務にとどまる。今回調査でも「水道法上の測定義務がない」として20年度以降、一度も検査を実施していない水道事業が一定数確認された。
国は暫定目標値から、水道法上の「水質基準」の対象に格上げすることを検討している。米国はPFOAとPFOSの規制値について、それぞれ1リットル当たり4ナノグラムとしている。ドイツは28年に2物質を含む4種類のPFAS合計で同20ナノグラムとする方向だ。各国の取り組みも参考に検討を深める必要があろう。
石破茂首相は「来春をめどに方向性を取りまとめる」とする。水質基準になれば、水質検査や、濃度が一定の数値を超えた場合の水質改善といった対応が水道事業者に義務付けられる。安全な水質確保につなげたい。
PFAS汚染 米軍基地の調査拒むな(2024年12月4日『東京新聞』-「社説」)
消火剤に含まれるPFASが地下水を汚染したと考えられるが、米軍に特権的な法的地位を認めた日米地位協定が壁となっている。国民の健康を守るため、協定改定に踏み込むよう政府に求める。
汚染事故時の日本側の立ち入り調査について、2015年に結ばれた日米地位協定の環境補足協定では「手続きを日米で定める」などと規定するが、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)や横須賀基地(神奈川県横須賀市)で立ち入りが米軍に拒まれる例が相次ぐ。
実態解明できずに費用負担を強いられる現状は放置できない。
日弁連によると、ドイツの米軍基地周辺でPFASが検出された際、米軍は浄化費用を負担した。イタリアや韓国では、基地内への立ち入り権が規定されている。日本が結ぶ協定とは大差がある。
各地の水道事業は人口減少や施設老朽化で維持が難しくなっており、PFAS対策は新たな負担になる。政府は米軍よりも自治体への財政支援を優先すべきである。
国のPFAS対策 排出源特定 責任果たせ(2024年12月4日『沖縄タイムス』-「社説」)
全国の地下水などからPFASの検出が相次ぎ、懸念が広がっている。これまでの専門家会議での意見などを踏まえ、2020年6月の初版を更新した。新たに「今後の対応の方向性」を追加したのが特徴だ。
PFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラムと定める国の暫定目標値を超えた汚染水を住民が飲まないよう、対策の徹底を呼びかけている。
一方で、汚染の原因となる「排出源」を特定するための記述が少ない。
手引きでは、特定の原因によると疑われ、継続性があると判断される場合、「必要に応じて排出源の特定のための調査を実施し、濃度低減のために必要な措置を検討することが考えられる」との表記だ。
具体性に乏しく、国民の不安からすれば、あまりにも消極的過ぎる。
汚染のリスクを伝えるだけで、その原因を突き止め、拡大を防ぐ対応を示さないようでは、不十分と言わざるを得ない。
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県内では、県企業局の本格調査が始まった14年以降でも北谷浄水場の水源となる河川などから高濃度のPFASが検出され、継続性が認められる。
嘉手納基地や普天間飛行場周辺の河川、地下水からも高濃度のPFASが検出され、県は「米軍基地が汚染源の蓋然(がいぜん)性が高い」と判断し、繰り返し立ち入り調査を求めてきた。
だが、米軍は日米地位協定を根拠に調査を認めず、日本政府も環境補足協定の要件に該当しない、と歩調を合わせている。
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国の調査では、全国の水道事業で目標値を超えなかった。ただ、沖縄ではPFASが検出された河川からの取水を制限し、高機能粒状活性炭で浄水するなど抑え込んでいるのが実態だ。
県はPFAS対策に10年間で80億円以上を見込む。
米国では飲み水の基準をPFOSとPFOAの各1リットル当たり4ナノグラムと設定するなど厳格化の流れにある。
環境省も水質管理を強化する方針で、対策費用はさらにかさむ。
汚染を食い止めるためには排出源の特定は欠かせない。安全な水の提供は国の重要な役割だ。排出源の特定に責任を果たすべきだ。
PFAS全国調査 水道の安全につなげねば(2024年12月1日『信濃毎日新聞』-「社説」)
1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)という国の暫定目標値を超えたところはなかったが、検査済み全体の2割に当たる332の水道事業で検出された。
長野県内も中野市や長野市、大町市などの7事業で確認された。検査が推奨されるようになった2020年以降では東北中南信すべてで検出例がある。それだけ身近な化学物質になっている現実を、あらためて共有したい。
PFASは水や油をはじき、熱にも強い。フライパンや食品包装といった生活用品の皮膜、泡消火剤、半導体の生産工程などで幅広く使われている。
その便利さと裏腹に、健康リスクについての疫学研究が蓄積されている。世界保健機関(WHO)の研究機関も発がん性があるなどと評価した。各地で住民の血液中から検出される例が相次ぎ、浄水場で高濃度の汚染が確認された岡山県吉備中央町は公費による住民の血液検査を始めた。
住民の不安に応えるには、まずは定期的な水質検査と結果の公表が欠かせない。
暫定目標値のままだと、検査や水質改善などは努力義務でしかないため、環境省は水道法上の「水質基準」とし、対応を法的に義務付けるかどうか検討している。欧米に比べて緩い50ナノグラムという現在の基準値の見直しも含め、対応の強化が要る。
発生源の特定と環境中への漏出防止の強化も必要になる。
暫定目標値を超えた水道事業は20年度の11から減り、初めてゼロになった。主に取水停止や水源の切り替え、活性炭吸着などの浄水強化による。20年度に一部水源で暫定目標値を超えた長野市も検出値を下げてきている。
それらは根本的な解決策ではない。これまでは化学工場や泡消火剤を使う米軍基地からの漏出、PFASを含む廃棄物の放置などが発生源として疑われてきた。ただ、水道水や人の血液中に入り込む経路には不明な点も多く、特定に至らないケースが目立つ。
1万種類以上あるとされるPFASのうち代表的な数種類は国内製造や輸入が禁止されたが、使われ続ける限り、混入するおそれはいつでも、どこででもあり得る。それを前提に、生産、流通における規制や自治体の調査権限の強化も考える必要がある。
PFASの規制 水道の安全守る対策急げ(2024年8月23日『産経新聞』-「主張」)
有機フッ素化合物(PFAS)(京大の原田浩二准教授提供)
発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))が、各地の水道水や河川から検出されている。
国の水質管理の目標値を上回るPFASが飲み水から検出された地域もある。住民が不安を感じるのは当然だ。環境省と国土交通省は全国で水道水の調査を開始した。日本が、水道水を安心して飲める国であり続けるために実態の把握が急がれる。
政府は有識者会議で対応を検討中だ。水道水の安全と信頼を守るため、科学的知見に基づいた、実効性のある方策を示してもらいたい。
PFASは、1万種類以上あるとされる有機フッ素化合物の総称だ。特に広く使われてきたのがPFOA(ペルフルオロオクタン酸)とPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)である。政府は水道水の暫定目標値として、この2物質の合計で1リットルあたり50ナノグラム(ナノは10億分の1)を定めている。
ところが、岡山県吉備中央町では、浄水場の水からこの28倍にあたる濃度が検出された。一部住民の血液からも高濃度のPFASが検出されたという。取水源の上流近くで野ざらしで保管されていた使用済み活性炭から流出したとみられる。
汚染原因には古い泡消火薬剤の可能性も指摘される。政府は消防機関や空港、自衛隊関連施設などの在庫を調べている。
PFASが問題になった背景に世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関が健康影響を指摘したことがある。2023年にPFOAを4段階の発がん性評価で最も高い「発がん性がある」に分類し、PFOSを「可能性がある」に分類した。
現在は、水道事業者に対する努力義務的な位置づけである目標値を、法的拘束力のある基準に引き上げることも一案である。さらに、1リットルあたり50ナノグラムという現行の数値が、妥当かどうかの検討も欠かせない。