政府、闇バイト対策を決定 警察の「雇われたふり作戦」早期実施へ(2024年12月17日『毎日新聞』)

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犯罪対策閣僚会議で発言する石破茂首相=首相官邸で2024年12月17日午前8時9分、平田明浩撮影
 政府は17日、犯罪対策閣僚会議を開き、「闇バイト」が絡んだ強盗などの事件防止に向けた緊急対策を決定した。警察の捜査員が身分を偽って闇バイトに応募する「仮装身分捜査」の早期の実施を明記。募集情報については、何が違法かを明確化し、SNS(ネット交流サービス)事業者による闇バイト投稿の削除の徹底を促す。
 仮装身分捜査は、警察庁が「雇われたふり作戦」と名付け、導入の検討を進めていた。緊急対策では、現行法の範囲内で実施可能な在り方を検討し、指針などで明確化した上で、早期に実施すると盛り込んだ。
 警察庁は今後、捜査のために偽の身分証を作製することは公文書偽造罪に該当せず、違法性が阻却されることを法務省などと協議。捜査員の安全を確保するための指針づくりも進め、仮装身分捜査を速やかに実施する考え。
 「ホワイト案件」や「即日即金」といった闇バイト投稿の削除の促進も図る。何が違法な投稿かSNS事業者が判断に迷うケースがあるため、求人側の氏名や名称、住所、連絡先、業務内容、就業場所、賃金の表示がない募集情報は違法であると通知で明確化し、広く周知する。
 こうした表示のない募集情報は、総務省が2025年5月までに定める「違法情報ガイドライン」で、職業安定法などに違反すると記載。そしてSNS事業者に対し、このガイドラインの記載内容を各社の削除基準に盛り込むように求め、削除の徹底を進める。
 さらに、SNSのアカウント開設時における本人確認の厳格化もSNS事業者に要請する。現在はメールアドレスの入力のみで開設できるサービスもあるため、携帯電話のSMS(ショートメッセージサービス)による認証などを求める。
 求人情報サイトを運営する事業者に対しては、求人の事前審査の厳格化などを要請する。
 秘匿性が高い通信アプリ「シグナル」や「テレグラム」など海外に拠点がある事業者についても、国内の被害状況などの情報提供を検討していく。
 今回の緊急対策は、SNSなどの事業者に対する強制力はない。
 また、防犯カメラの増設が必要な場所の整理をするほか、交付金を活用した防犯カメラの整備促進にも取り組む。【山崎征克】

おとり捜査と何が違う? 警察庁導入検討「仮装身分捜査」 課題は(2024年12月5日『毎日新聞』)
 
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 警察庁が導入を検討している「仮装身分捜査」は、捜査員が架空の人物になりすまして身分証明書を使うなど、従来の「おとり捜査」から踏み込んだ捜査手法となる。どのような課題があるのか。
 警察ではこれまで、おとり捜査を、違法薬物や銃器の取引などで限定的に実施してきた。おとり捜査とは、捜査員や捜査協力者が身分や目的を隠して、犯罪をするように働きかけ、相手が実行に踏み切った際に摘発する手法。
 最高裁は2004年7月の決定で、薬物捜査など直接の被害者がいない犯罪で、通常の捜査手法だけでは摘発が困難な場合、機会があれば犯罪をする意思があると疑われる人物に対するおとり捜査は、任意捜査として適法だと示した。
 一方で、捜査員が身分を偽る仮装身分捜査は実施してこなかった。捜査手法の高度化に関する有識者研究会の中間報告(11年)では、米国、ドイツ、フランス、イタリア、豪州に潜入捜査員による偽装身分の使用を認める制度があったとされている。
 警察庁は強盗などの現場に集まった実行役を事件が起きる前に逮捕するために仮装身分捜査を活用するとみられる。警察関係者は「安易に闇バイトの募集はできないという抑止効果は働くと思う」と話す。
 甲南大の園田寿名誉教授(刑法学)は、闇バイトに対する仮装身分捜査の適用について、「強盗事件が相次ぐ中で、一定の抑止効果が期待でき、国民の安心感にもつながる」と理解を示す一方、「特別法を制定するなど適用する範囲を限定すべきだ」と主張する。
 警察庁は運用指針を策定する方針だが、園田氏は「指針では適用範囲の解釈が拡大されていく恐れがある。特別法で『闇バイト』を定義して適用範囲を明示するなど、例外的な捜査手法にする立法的な措置が必要だ」と強調する。
 また、逮捕するタイミングの難しさも指摘する。
 強盗を目的とした闇バイトの場合、実行役が集合した段階で強盗予備容疑が適用できる可能性があるが、指示役からの明確な強盗の指示がなければ、「引っ越しのために集まった」との言い逃れをされかねない。
 民家の敷地内に入った段階であれば、住居侵入容疑が適用できるが、逮捕が遅れれば、住人が実際に被害に遭う可能性もある。
 また「犯罪グループに警察官であることがばれれば、危険にさらされかねない」と懸念する。
 東京都立大の星周一郎教授(刑事法)も導入には、「範囲を限定したうえで実施する段階にきているのでは」と一定の理解を示す。
 だが、偽の身分証明書を使うことから、「管理が適切にできるような指針をつくるべきで、国民にも丁寧に説明することが警察には求められる」とした。【山崎征克、松本惇】