人口減少に関する全国紙の社説・コラム(2024年4月26日)

人口減少は過去にも…(2024年4月26日『毎日新聞』-「余録」)
 
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住民が積み上げた石垣が残る群馬県南牧村の街並み。同村も「消滅可能性自治体」の一つだ=2023年6月、田所柳子撮影
 
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愛媛県大洲市の古民家を再生したホテル。同市も「消滅可能性自治体」に該当する=2023年1月、太田裕之撮影
 
 人口減少は過去にも起きた。縄文時代後半や平安時代。江戸時代後半にも東北や北関東で減少したそうだ。歴史人口学者の鬼頭宏さんは「文明システムの成熟化に伴う現象」と分析している(「人口から読む日本の歴史」)
▲多産から少子化。早婚から晩婚化。大家族から核家族化。人口の都市集中。明治以降の日本社会の変化は工業化を軸とした現代文明の帰結でもあった。出生率の低下は先進国に共通する現象だ
▲特に日本など父系が強い「マッチョな国」の出生率が低い。こう論じたのは歴史人口学の泰斗、速水融博士だ。男性優位社会で我慢を強いられてきた女性が「子どもを産むだけの人生ではない」と意思表示しているというのである
▲700超の自治体に消滅の可能性があるという「人口戦略会議」の試算に改めて少子高齢化の日本の行く末を考える。流入人口に頼る東京など大都市の「ブラックホール自治体」の対策が重要というが、それだけで展望が開けるわけではあるまい
▲問題は「少子高齢化をどう防ぐか」ではなく「どのような成熟社会を構築するか」。鬼頭さんがこう提言したのは20年以上前だ。速水さんは浮世絵や俳句など江戸の庶民文化が花開いたのは人口減少期と指摘し、価値観の転換を求めた
▲旧来の家族観や結婚観にこだわっていては次の世界は見通せないだろう。「人口減少をチャンスにするのもしないのも我々次第である」。4年前に亡くなった速水さんが著書「歴史人口学事始め」で言い残している。
 
人口減対策と地域の持続性確保は両輪で(2024年4月26日『日本経済新聞』-「社説」)
 

リモートワークの定着で地方で子育てをする若い世代も増えつつある(和歌山県白浜町
 
 2050年に市区町村の4割が消滅しかねないという報告を民間の「人口戦略会議」がまとめた。地方の人口減少の深刻さを改めて浮き彫りにする内容だ。政府が地方創生に取り組んで10年になるが、その政策効果に疑問を投げかけたといえよう。
 地方創生は地方への移住を重視したため、自治体間の人口争奪を促すにとどまり、全体の出生率向上につながっていない。人口対策としては出生数の3分の1を占める首都圏の少子化対策が別に必要だ。地方の持続性を高める政策は、人口問題と切り分け、両輪として取り組むべきである。
 報告によると「消滅可能性自治体」は前回の14年の896から744に減った。厳しい状況は変わらないとみるべきだが、それはどの自治体も身に染みていよう。危機感をあおるショック療法を何度も使うのは感心しない。
 前回報告を契機に始まった地方創生は、60年に人口1億人の維持を目標とし、そのために人口の東京一極集中に歯止めをかけることを掲げた。出生率の低い東京圏に地方から若い女性が集まることが人口減少を加速させるとの問題意識からだ。
 しかし、女性の就労率が高まれば、希望する仕事の多い東京圏に出ていくのは自然の流れだ。それを前提に地方のあり方を考えねばならない。
 人口が減る地方で行政機能を維持するために考えられるのが、市町村合併道州制といった自治体の再編だ。だがこれらは合意形成に相当な政治的エネルギーを要する。目の前の業務が山積する現状では、大きな困難を伴う。
 それよりデジタル化を通じて自治体業務を共通化し、複数の自治体が共同で担ったり、都道府県が肩代わりしたりする広域連携を探っていくのが現実的だ。これらが進めば、その先に合併機運が醸成される余地も生まれよう。
 行政コストを下げるため、人々がある程度まとまって住むことも必要だ。居住地などを集約するコンパクトシティーは1世代30年かけて進めていく政策だが、足元でも市街地のマンションに集住する動きが広がりつつある。福祉や防災面からも望ましい傾向であり、こうした流れを後押ししたい。
 人口減対策や地域の持続性を高める政策は息の長い取り組みが必要だ。消滅か否かに一喜一憂せず、地道に着実に進めてほしい。
 
感傷では止められぬ流れ、「消滅可能性自治体」(2024年4月26日『産経新聞』-「産経抄」)
 
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「消滅可能性自治体」について公表された民間組織「人口戦略会議」のシンポジウム=東京都千代田区東京商工会議所渋沢ホール
 
 三島由紀夫は伊勢湾に浮かぶ小さな島を、小説『潮騒』の舞台にした。都会の色に染まらず、風光明媚(めいび)で経済的にやや富裕な漁村―。条件に合う場所を探していたところ、水産庁から紹介されたのが三重県鳥羽市の神島だった。
▼<島には、一軒のパチンコ屋も、一軒の酒場も…なかった>。小説に描かれたのは昭和28年頃の情景という。当時の人口は約1400人、取材で三島が訪ねると「病人が療養に来ている」と噂が立った。漁で真っ黒に焼けた島人の中、よそから来た色白の文士は目立ったらしい。
▼日本全土がまだ若く、離島にも活力が満ちていた時代だろう。約70年がたち、神島の人口は309人(令和4年2月末)にまで減った。人口戦略会議から将来的に「消滅する可能性」を指摘された自治体には、神島を抱えた鳥羽市も含まれている。
少子高齢化の流れが続けばいずれ立ち行かなくなる自治体の数は、計744に及ぶという。文学、産業、伝統工芸、スポーツ、観光名所。きのうの小紙に載った「消滅可能性」の一覧にご自身と縁のある地名を見つけ、胸を突かれた方は多かろう。
▼『潮騒』の頃の三島は国の施策で島の暮らしが上向くことを望みつつ、複雑な思いを吐露した。「感傷的な私は、島があの素朴な美しさを失うことを、惜しまずにはいられません」。感傷では止められぬ潮の流れに、作家が存命ならどんな所感をつづるか聞いてみたい気もする。
▼このまま日本が衰運の一途をたどるとは思わないが、行政サービスもインフラも、人口減少の時代に合わせて作り変えねば社会がもたない。ゆかりある地に思いをはせ、どんなアクションを起こすのか。われわれ一人一人に投げ掛けられた問いでもあるのだろう。
 
続く人口減少 若者が希望持てる街に(2024年4月26日『東京新聞』-「社説」)
 
 民間組織「人口戦略会議」が、744市町村を将来「消滅の可能性がある」と見なす報告書を公表した。10年前にも別の団体が896自治体に消滅可能性があると指摘したが、その後も効果的な対策が講じられたとは言い難い。
 再び鳴らされた警鐘を重く受け止め、若者ら将来世代が希望を持てる、暮らしやすい地域づくりにこそ知恵を絞りたい。
 報告書は、2020~50年の30年間で子どもを産む中心世代の20~30代女性が半数以下となり、人口減により行政運営が維持できなくなる自治体を「消滅可能性自治体」と定義。該当する744市町村は全体の4割超に当たる。
 10年前の896自治体よりは減ったが、報告書は外国人の流入増の影響と分析。日本人女性の出生率は低下しており、人口減は楽観できる状況でないと指摘する。
 自治体消滅という10年前の指摘は多くの自治体に衝撃を広げたが出生・死亡の自然減対策よりも、人口移動を示す社会減対策に関心が向いたため自治体間で人の取り合いとなり、日本全体では人口の底上げにはつながらなかった。
 報告書では流入人口が多いものの出生率が低い東京などの自治体を「ブラックホール自治体」と呼び、対策の必要性を訴えた。
 地方などから若者らの流入が増えても、出生率が低いままでは根本的な問題解決にはならない。子どもを産み育てやすい環境の整備は、都心部こそ優先的課題だ。
 消滅可能性自治体から脱した東京都豊島区は、保育所整備や区立小中学校の給食無償化などに努めてきた。愛知県飛島村は宅地開発や出生祝い金などの支援を強化した。他の自治体も先行事例を参考に対策を再検討してほしい。
 子育てを地域で支える意識が強いという沖縄県では「自立持続可能性自治体」が目立つ。地域の絆を再び強め、住民が若い世代や子どもたちを見守る「子育て力」の育成も効果的な対策だろう。
 地方の若い女性には、非正規雇用を選ばざるを得ない状況が都市部に流出する要因となっている。「共働き・共育て」夫婦が増えていく時代だ。地域を問わず女性が安心して働き続けられる雇用の確保は、企業の責任でもある。
 自治体消滅を避けるには、人口対策はもちろん、行政施設の集約や自治体間の広域連携など、行政効率化も不可欠だと指摘したい。