「争うために集まったわけではない…(2024年4月24日『毎日新聞』-「余録」)

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米ニューヨークの裁判所で審理開始を待つトランプ前大統領=22日、AP
 
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トランプ前米大統領(左)が座る法廷で、宣誓を行う陪審員たち=ニューヨークで2024年4月19日、法廷内イラスト・AP
 
 「争うために集まったわけではない。我々には責任がある。知らない人の有罪、無罪を決める。損も得もない」。移民の時計職人が「この国が強い理由はここにある」と他の陪審員たちに語りかける
▲法廷映画の傑作「十二人の怒れる男」(1957年)の印象的なシーンだ。米ニューヨークの暑い夏の午後。スラムの少年の父親刺殺事件をめぐる狭い部屋での議論が「簡単に死刑にしたくない」という一人の問題提起から変化していく
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▲白人男性ばかり。「スラムの連中はクズでウソつき」といった偏見もある。元々、テレビ用の脚本で50年代前半、マッカーシズムの「赤狩り」旋風が吹き荒れた時期に書かれた
▲トランプ前大統領が不倫の口止め料を不正に会計処理したとされる事件の裁判が実質審理に入った。国論が二分され、陪審員選びも一筋縄ではいかない。数百人の候補から男性7人と女性5人が選ばれ、補欠も用意された
▲10日に亡くなったアメリカンフットボールの元スター、O・J・シンプソン氏が殺人罪に問われた95年の裁判を思い出す。陪審員の人種構成は黒人9人、白人2人、ヒスパニック系1人。無罪の評決に人種差別問題が影響したといわれた
▲「法廷の証拠に合理的な疑問があるか」。陪審員が判断するのはこの一点という。疑問なしなら有罪だが、トランプ氏が魔女狩りと批判し、検事が脅迫される状況で一致した評決にたどりつけるか。時計職人が「民主主義の素晴らしさ」と評した陪審制度の真価が問われる。