中国と台湾新政権 緊張高めぬ取り組みこそ(2024年4月24日『毎日新聞』-「社説」)

台湾の馬英九前総統(左)と握手を交わす中国の習近平国家主席=北京で2024年4月10日、新華社AP
台湾の馬英九前総統(左)と握手を交わす中国の習近平国家主席=北京で2024年4月10日、新華社AP

 台湾で来月20日民進党の頼清徳(らいせいとく)政権が発足するのを前に、同党を「台湾独立勢力」と敵視する中国が揺さぶりを強めている。

 今月10日には習近平国家主席が、台湾の最大野党・国民党の重鎮で対中融和路線を掲げる馬英九前総統と北京で会談した。

 習氏は「両岸(中台)の同胞は中華民族に属している」と強調し、ともに平和統一を目指すべきだと呼び掛けた。馬氏も「平和と共栄の両岸でなければ、中華民族の明るい未来はない」と応じた。

 両氏は、中台が「一つの中国」の原則を認めたとされる「1992年合意」の堅持を確認し合った。92年合意を認めない民進党に圧力をかける中国の狙いは明らかだ。

 中国は、台湾の後ろ盾となっている米国の動きにも神経をとがらせている。会談を10日に設定したのは、日米や日米比の首脳会談に合わせ、台湾問題への関与をけん制する思惑があったとも指摘されている。

 日米首脳は、自衛隊と米軍の指揮・統制の連携強化を盛り込んだ共同声明を発表し、中国への対抗姿勢を強く打ち出した。これに対し、中国外務省は「台湾や海洋などの問題で中国を攻撃し、内政に干渉している」と反発した。

 だが、台湾海峡の平和と安定は国際社会の重大な関心事である。情勢が緊迫化すれば米中衝突のリスクが高まり、その影響は日本をはじめ世界に及ぶ。

 周辺国が抑止力と対処力を強化するのは、中国が力による現状変更の試みを常態化させ、台湾の統一に向けて武力行使も排除しないとの姿勢を示しているためだ。

 中台の事実上の停戦ラインとされる中間線の軍用機による越境や、台湾が実効支配する海域への公船の侵入を繰り返している。

 中国商務省が、台湾から輸入するプラスチックの一部に反ダンピング(不当廉売)関税を課したのも、新政権誕生を見据えた措置との見方が強い。

 民進党政権が初めて3期続くことになった背景には、台湾の主体性を重視する人々の意識の広がりがある。「中華民族の一体感」を訴える一方で、威圧的な行動を続けていては反発を招くだけだ。

 緊張を高めない取り組みこそが求められている。