事故機と同型のSH60K哨戒ヘリコプター(海上自衛隊提供)=共同
海自ヘリ2機墜落 相次ぐ事故の原因究明を(2024年4月23日『毎日新聞』-「社説」)
なぜ事故の再発を防ぐことができなかったのか。捜索に全力を挙げるとともに、原因究明を急がなければならない。
探知機(ソナー)を水中に投入して、潜水艦を見つける訓練を夜間に実施中だった。事故当時はヘリ3機が洋上にいた。
海自では2021年にも、鹿児島県・奄美大島沖で、ヘリ2機が接触し、機体を損傷する事故があった。これを受けて、高度をずらして飛行し、見張りや安全確保を徹底するなどの再発防止策をまとめた。だが、再び事故が起きてしまった。
レーダーも使用したとみられるが、夜間は昼より目視での周囲の確認が難しい。
訓練に参加していた別のヘリや艦艇の乗員に対する徹底した聞き取りなどを通じて、事故の経緯を明らかにしなければならない。
さらに、自衛隊の体制に問題はなかったかについても点検する必要がある。
近年、自衛隊機の事故が相次いでいる。
ひとたび航空機の事故が起きれば、一般市民が巻き込まれかねない。国民の不安を払拭(ふっしょく)するためにも、原因を徹底的に調査したうえで、情報を開示しなければならない。
「鳥は数学の法則によって動かされている器械であり…(2024年4月23日『毎日新聞』-「余録」)
「鳥は数学の法則によって動かされている器械であり、それは人間の力で再現できる」。レオナルド・ダビンチは鳥の飛び方を詳しく観察し、手記に書いた。考案した空飛ぶ器械のスケッチも残る
▲らせん状の回転翼を持つ器械はヘリコプターを思わせる。ダビンチの誕生日(4月15日)が日本で「ヘリコプターの日」に選ばれた理由だ。当時の材料や技術では飛べなかったが、米国の大学院生がスケッチを基に作った回転翼を備えたドローンは飛行に成功したという
▲空中での一時停止が可能で、滑走路もいらないヘリは今や病人の搬送や災害救助に欠かせない。戦後、軍用ヘリの開発も進んだ。日本の周りの海では海上自衛隊の哨戒ヘリが周辺国の潜水艦の動きに目を光らせる
▲その訓練中の事故だ。はるか太平洋上の鳥島沖でそれぞれ4人が乗った海自の哨戒ヘリ2機が海上に墜落した。機体同士が衝突したらしい。あすが満月だから闇夜ではなかろう。高度をずらして飛ぶなど過去の事故の教訓は生かされなかったのだろうか
▲中国、ロシア、北朝鮮と監視対象は多い。特に中国は米国を上回る数の潜水艦を擁し、活動範囲を広げる。「出動機会が増え、思うような訓練ができていないのでは」と海自OBが心配するのも無理はない
海自ヘリ墜落 事故の頻発は何が原因なのか(2024年4月23日『読売新聞』-「社説」)
自衛隊で深刻な事故が続いている。練度が不足しているのか。組織に緩みはないのか。十分に検証する必要がある。
伊豆諸島の沖合で20日夜、訓練中の海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機が墜落した。ヘリには4人ずつ、計8人が搭乗しており、隊員1人が救助されたが、死亡が確認された。残る隊員は行方不明で捜索が続いている。
現場からは2機のフライトデータレコーダーが回収された。二つの発見場所が近いことから、木原防衛相は両機が「衝突した可能性が高い」と語った。
今回の訓練にはもう1機、別のヘリも参加していた。当時の状況を聞き取り、回収したレコーダーの解析を進めて、事故原因を究明することが不可欠だ。
海自では2021年にも、哨戒ヘリ2機が夜間訓練中に接触事故を起こしている。2機がそれぞれ相手の動きを正しく把握していなかったことが原因とされた。
この事故以降、複数のヘリが活動する場合は、異なる高度をとって接触を避けるよう管制担当者が指示することになっていた。各機内でも相手の位置をレーダーなどで確認し、異常接近を防ぐといった再発防止策が打ち出された。
今回、その教訓が生かされたのかも点検する必要がある。
墜落した2機は、空から海に探知機を投入し、水中の音波を解析することで、敵に見立てた海自の潜水艦がどこにいるのかを探る任務を負っていた。
近年、中国が海洋進出を強めており、防衛省と自衛隊は対潜水艦訓練を強化してきた。今月には南シナ海で、日米豪比の4か国による共同訓練を行ったばかりだ。今回の事故を受け、海自は同型機の訓練を当面見合わせるという。
急速に悪化する安全保障環境に対処するには、隊員らが厳しい規律の中で、練度を高めることが欠かせない。平時の任務で繰り返し事故を起こしているようでは、有事の際、迅速かつ的確に対処することは難しいだろう。
自衛隊への信頼が揺らぎ、他国との連携に支障が出ないよう再発防止策を徹底せねばならない。
海自ヘリ事故の究明に全力を(2024年4月23日『日本経済新聞』-「社説」)
計8人が搭乗し、収容された隊員の死亡が確認された。まずは行方不明者の捜索に全力を挙げるとともに、事故原因の究明を 急がねばならない。
防衛省や海自によると、墜落したのは哨戒ヘリコプター「SH60K」で、潜水艦を探知する夜間訓練中だった。2機が空中で衝突した可能性がある。機体の異常などは確認されていないという。
深刻な事故が相次ぐ事態を、自衛隊は重く受け止めねばならない。過去の教訓が生かされなかったのか。訓練の内容や頻度が適切だったかを含め、徹底的に検証する必要がある。
海に囲まれた日本の防衛にとって、周辺海域の警戒監視が重要であることは言うまでもない。海洋進出を強める中国は近年、潜水艦の能力向上を図っている。日本は対潜水艦の哨戒能力に優れるとされるが、こうした脅威に対抗するために訓練を強化してきた。
そのさなかに起きた今回の事故である。同型機の訓練飛行を見合わせるなど影響は小さくない。安全保障の観点からも、一刻も早い原因の特定と再発防止策が求められる。
海自ヘリ墜落 原因究明急ぎ再発防げ(2024年4月23日『東京新聞』-「社説」)
海上自衛隊のヘリコプター2機が東京・伊豆諸島の東方海域での訓練中に墜落した。2機には合わせて8人が搭乗していた。岸田文雄政権が防衛力強化を急ぐ中、隊員の生命に関わる事故が相次いでいる。原因究明を徹底し、再発を防がなければならない。
墜落した2機はいずれもSH60K哨戒ヘリ。20日深夜、この2機を含むヘリ6機と艦艇8隻で潜水艦を探知する訓練を行っていた。
飛行記録装置を詳細に解析すると同時に、訓練に参加したほかの隊員からも詳しく事情を聴く必要がある。人為的ミスが判明した場合、訓練方法の見直しも含む再発防止策を講じることが急務だ。
海中深くの潜水艦を追尾するには、空中のヘリ2~3機から「ソナー」と呼ばれる装置を海中に投入し、微弱な音波や磁気を探知する高度な技術を要する。特に夜間はヘリが互いを目視しづらく、より困難な任務になる。
23年4月には10人乗りの陸自ヘリが墜落し、全員が死亡する事故があった。こうした事故の教訓が生かせなかったのなら深刻だ。
中国は近年、南西諸島などで潜水艦の活動を活発化させ、海自は対潜水艦訓練を強化している。北朝鮮の弾道ミサイル対処や沖縄県・尖閣諸島周辺海域での警戒監視などの実任務に時間や人手が割かれ、訓練不足との指摘もある。
ただ、重大事故が相次げば、自衛隊への信頼が揺らぐ。国際情勢の変化には適切に対応せねばならないが、限りある予算と人員の範囲内で、どう訓練を充実させて練度を高めるか。効率的な部隊運用に一層、知恵を絞る必要がある。
「あれじゃあ、だれだってこわいですよ」。飛行機で目的地にた…(2024年4月23日『東京新聞』-「筆洗」)
「あれじゃあ、だれだってこわいですよ」。飛行機で目的地にたどり着けず、引き返してきた操縦士が支配人に事情を説明する。四方は山。突風もやって来る。気圧計も見えない。「これがすべて真っ暗闇の中の出来事です」。自身もパイロットだった仏作家、サンテグジュペリの『夜間飛行』にそんな場面があった
▼民間航空の黎明(れいめい)期において夜の飛行はいかに恐ろしかったか。支配人は言い訳に耳を貸さない。「夜というあの暗い井戸の中に降りて行って、そこからまた上がって来ても、別に珍しいことをしたとも思わないようにしなければならない」(訳・堀口大學)。酷な話である
▼3機で潜水艦を探知する訓練中だった。訓練ではヘリ同士がある程度、接近する必要があり、この際に衝突した可能性があるという
▼2021年にも鹿児島県沖でヘリ2機が接触するなど夜間訓練中の事故が後を絶たない。サンテグジュペリの時代とは違い、視認性の低い夜間においても事故を回避する技術は格段に向上しているはずだが、相次ぐ事故が解せない
▼行方不明者の捜索と事故原因の究明を急ぎたい。突き止めなければならないのは潜水艦の位置よりも夜間訓練に棲(す)む「魔物」の正体である。