万博に関する社説・コラム(2024年4月17日)

開幕まで1年を切った大阪市の万博会場(13日、ドローンから、パノラマ写真) =共同
 
万博まで1年 開催の意義なお見えぬ(2024年4月17日『北海道新聞』-「社説」)

 大阪・関西万博の開催まであと1年となった。道内を含め全国的な盛り上がりはなお見えない。
 「人類共通の課題解決」を目的に気候変動や健康寿命などがテーマで理念自体は間違っていない。
 だが工費高騰や人手不足で海外パビリオン建設は遅れ、会場整備費は当初想定の1.9倍、最大2350億円に膨らむ。運営費も1.4倍の1160億円になる。
 前回1970年の大阪万博と違い今はテーマパークやネット空間でも代替できる。ハコモノに巨費を投じ、催事で経済効果も狙う手法は時代感覚がずれていないか。
 コロナ禍の中で慎重論を抑えて開かれた東京五輪は、開催経費が膨張し汚職の温床となった。
 今回の万博は展示詳細も明らかでない。意義が明確にならないままの開催では納得は得られまい。
 万博は人工島・夢洲(ゆめしま)で来年4月13日から半年間開催し、161カ国・地域が参加表明している。
 だが自前の海外パビリオンで着工済みはわずか3割弱で、建設を断念して博覧会協会の施設を共同利用する例も出ている。今月から建設、物流業の残業規制が強化され作業日程は一層厳しくなった。
 大阪府の吉村洋文知事も会見で「内装がまだという国が過去の万博でもある」と述べ、未完成のまま開幕する可能性に言及した。
 会場中央に広がる1周約2キロの木造大屋根リングは整備費が350億円に上る。万博後は撤去方針だったが、批判を受け再活用を図るものの具体策はこれからだ。
 そもそもリングが邪魔で工事に支障をきたすとの指摘もある。
 万博は直接の国費投入だけで1600億円を超える。支出を厳しく査定しているか不信が募る。
 会場建設以外にも国や自治体、民間が道路・港湾などインフラ整備に投じる費用は約9兆7千億円に及ぶ。気になるのはカジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)予定地が隣接することだ。
 政府は両事業は別とするが、吉村知事と日本維新の会が進めるIRのための重点整備ではないかとの国民の疑念は拭えない。
 開催に向け国は「全国的な機運醸成」予算を40億円計上するが、道内では今月札幌にオフィシャルストアが開設する程度である。
 前回の大阪万博は米宇宙船が持ち帰った「月の石」展示が人気だったが、今回は目玉に乏しい。
 万博が赤字の場合の補塡(ほてん)方法は不透明だ。能登半島地震の復興などが急がれる中、税金で穴埋めすることにならぬよう求めたい。
 
万博は開催意義の説明足りぬ(2024年4月17日『日本経済新聞』-「社説」)
 

 2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の開幕まで残り1年を切った。開催決定から5年余りになるのに、いまだに何のための万博なのか、国民に浸透しているとは言いがたい。多額の公費を投じる行事であり、主催する政府や大阪府市などは開催する意義の説明に努めるべきである。

 大阪万博は来年4月13日に開幕する。準備は遅れており、自前でパビリオンを建てる参加国のうち、着工済みは4分の1ほどにとどまっている。開幕に間に合わないパビリオンが出てくるのは避けられない状況だ。

 パビリオン建設の遅れと、会場建設費が当初より8割増の2350億円に膨らんだことに伴う公費負担の増額は、万博をみる国民の目を冷ややかにした。大阪府市による全国調査で、万博に行くことに前向きな回答は21年末の52%、22年末の41%から、23年末は34%に低下している。

 関心の低下を映し、入場券の売れ行きも芳しくない。収支を合わせるには2200万枚を売る必要があるというが、1400万枚を予定する前売り券の販売はまだ1割に届かない。運営費の大半は入場料で賄うことになっており、赤字を抱えれば追加の公費負担は避けられないだろう。

 こうした負の連鎖の元凶は、開催の意義がはっきりしないことにある。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに持続可能な開発目標(SDGs)など社会課題の解決をめざすというが、会場で何が見られるのか、どんな体験ができるのか、伝わってこない。

 各国とも開幕まで展示内容を明かしたくないという事情があるのは理解できる。それでも出せる範囲でコンテンツの魅力を訴え、関心を呼ぶような発信を考えるのが運営主体の役割だろう。

 かつて日本人は五輪も万博も始まればみな関心を持つとされた。令和の時代にそんな楽観が通じる保証はないが、日本経済が転換期にあるのは確かだ。新たな時代を見通せる万博にしてほしい。