共同親権「離婚した父母の合意がなくても適用」に懸念相次ぐ 家裁は人手不足、参院審議入りも課題山積(2024年4月20日『東京新聞』)

 
 離婚後の父母がともに子の親権を持つ共同親権を可能にする民法などの改正案が19日、参院本会議で審議入りした。衆院では、父母が親権を決める際、力関係に差があって合意を強いられることを防ぐため、付則が修正されており、参院の審議では修正内容に沿った運用が担保されるかなどが焦点となる。(大野暢子)
 

◆「DVや虐待の再被害生む」

 本会議では野党から共同親権導入への懸念が相次いだ。立憲民主党の石川大我氏は「法案は当事者である父母の合意がなくても、裁判で共同親権となる制度だ」と問題視。日本維新の会清水貴之氏は「ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の再被害が生じるという不安の声がある」と指摘した。
 小泉龍司法相は、家裁が共同親権か単独親権かを判断する際に父母の合意より、子の利益を重視して決めると強調。DVや虐待の恐れには「親権の共同行使が困難な場合、裁判所は必ず単独親権と定めなければならない」と述べた。
 改正案は共同親権となるケースを事実上、厳格化する修正を行った上で、自民、公明、立民、維新、国民民主各党などの賛成多数で衆院を通過。共産党とれいわ新選組は反対した。 
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◆世論の理解、道半ば

 参院で19日に審議入りした離婚後の共同親権を導入する民法などの改正案は、どんな時に一方の親だけで決められる日常行為に含まれるかなど分かりにくい点が多く、制度への世論の理解は道半ばだ。父母の一方が拒んでも共同親権になり得る仕組みが妥当かや、子の安全・安心を守れるか、人手不足の家裁に適切な対応が取れるかなど、参院で議論を深めなければならない課題は多い。 
 父母が話し合いで共同親権を決めた場合だけでなく、意見対立で親権の在り方を合意できなくても家裁の判断次第で共同親権になり得ることに対しては、衆院で賛成に回った野党からも懸念が消えない。
 

◆立民の主張、衆院では修正に反映されず

 立憲民主党衆院での改正案の修正協議で「父母の合意がない場合は共同親権を認めるべきでない」と主張したが、修正には反映されなかった。共産党はこの件を重くみて衆院で改正案に反対した。
 同じく反対したれいわ新選組は声明で「子の重要事項を決める度に別居する親の顔色をうかがわなくてはいけなくなり、同居親と子の心身の負担が増大する」と訴え、子どもへの心理的な悪影響を危ぶむ。

◆新規の家事事件は10年で3割増し、迅速に対応できるか

 紛争を解決する場となる家裁の役割が高まるが、人手が足りているとは言い難い。虐待やドメスティックバイオレンス(DV)に迅速に対応して子の安心・安全を守れるかも焦点だ。
 国民民主党川合孝典氏は19日の参院本会議で「裁判所の体制や民間に依存した避難など、支援が極めて脆弱(ぜいじゃく)だ」と指摘した。同様の不安は与野党に残っているが、政府から実のある答弁は聞かれなかった。
 最高裁によると、家裁が扱う新規の家事事件は2012年の約85万件から、22年に約114万件に増加。調停の平均審理期間は、18年の6カ月から22年には7.2カ月に伸びた。改正案が成立すれば26年までに施行され、共同親権への変更申し立てや、共同親権の父母が子の養育で対立した際の調停なども家裁が担う。
 首都圏の家裁で調停委員を務める女性弁護士は取材に「既に事件が多すぎて家裁は手いっぱい。子の人生を左右する判断が遅れたり、虐待の危険が見過ごされたりしないか」と案じた。