「胃の難症 何でも来い 世界的腹中カメラ完成」。オリンパスと東大病院が共同開発した胃カメラの臨床実験成功を小紙が特報したのは学会発表前の1950年10月。欧米の先を行く画期的成果だった
▲その後、光ファイバーを備え、がん手術も可能になった内視鏡技術の第一歩。作家の吉村昭は若い研究者と技術者の熱い開発ドラマを小説「光る壁画」で描いた。かつてNHKの「プロジェクトX」でも取り上げられたことがある
▲日本の内視鏡が世界市場を席巻し、それを使った医療技術が今も世界トップにあるのは先行者の利得ゆえだろう。発明協会が公募した「戦後日本のイノベーション100選」でも内視鏡は新幹線や家庭用ゲーム機などと共にベスト10に選ばれた
▲今日は「発明の日」。大腸がん検診などでたびたび内視鏡のお世話になっている身としては物資も不十分な、戦後まもない時期に世界初の偉業を成し遂げた先達に感謝しかない
▲日本の特許出願件数は中国、米国に次ぐ3位が定位置になった。だが、経済の「失われた30年」を考えれば、技術力は何とか踏みとどまっているともいえる
▲ロボットを使った手術支援や人工知能(AI)利用の画像診断。内視鏡技術もさらなる進化を続ける。資源のない国の財産はやはり人材と技術だ。「わが国民はよろしく自家の発明力を確信し、大いに奮励して発明国民とならざるべからず」。アドレナリンの発見で特許庁の「十大発明家」に名を連ねる高峰譲吉博士の言葉である。