医療産業都市/市民に集積効果の還元を(2024年4月14日『神戸新聞』-「社説」)

 神戸市がポートアイランド2期で展開する「神戸医療産業都市」が、阪神・淡路大震災の復興プロジェクトとしてスタートしてから四半世紀が過ぎた。

 理化学研究所に代表される研究機関や高度医療を提供する病院群、世界トップ級の性能を誇るスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」などを核に企業が集積した。各国に先駆けた網膜再生医療の臨床研究、手術支援ロボットの開発など実績を重ねてきた。しかしこのところ、足踏み感がある。

 市は産学の関係者による検討会でてこ入れ策を議論しており、6月にも公表する。課題を洗い出し、次代を見据えた成長戦略を打ち出してもらいたい。

 医療産業都市は、鉄鋼や船舶など重厚長大型産業依存からの脱却を目指し1998年に構想が始まった。井村裕夫・京都大名誉教授を軸に、医療機器と医薬品、再生医療を主な領域として市が企業や研究機関の誘致を進めた。


 今年3月末で365社・団体が進出する国内最大級の医療産業集積地に成長したが、進出数は2022年1月をピークに5%減少している。市などの賃料補助の期限が切れると退去する例が多いのに加え、00年代以降は東京や神奈川、大阪、福岡、アジア各国も医療産業に着目しており、国内外で競争が激化している点も背景にある。

 最大の課題は、世界的な研究拠点を擁しながら旗印の「産業」に結び付いていない点だ。その要因を分析し、産官学で対策を講じねばならない。

 産業構造を刷新する当初の目的に立ち返れば、雇用や税収の増加に結び付くような製造拠点をもっと誘致する必要がある。神戸空港との連携も、国際化が軌道に乗った点を踏まえてさらに深化させるべきだ。

 現状の医療産業都市は、多くの市民にとって遠い存在である点は否めない。集積効果を市民に還元し、理解を深めてもらうことが重要になる。

 市民の健康増進をまちづくりの一環に位置付け、医療産業都市に蓄積された知見や技術を活用する政策展開も求められる。

 市民と企業、研究機関、病院の間で好循環が生まれる仕組みづくりに知恵を絞りたい。