小池百合子の「虚飾の政治家人生」に終止符を…! 目黒区長選、東京15区補選の結果は有権者が「小池の闇」に気付いた証である(2024年5月1日『現代ビジネス』)

 4月28日に投開票が行われた衆議院の3つの補欠選挙は、全て立憲民主党が制し、自民党は3議席を失った。この結果は、岸田首相の今後の政権運営に大きな影響を与えるであろう。そして、衆議院東京15区補選での乙武洋匡の敗北で、国政に復帰し、総理の座を狙うという小池百合子の野望は潰えたと言えるのではないかーー。
 
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注目の選挙結果
 島根1区は、安倍派元会長の細田博之衆議院議長の死去に伴う選挙である。与野党対決となったが、立憲民主党亀井亜紀子が82,691票を得て、自民党の錦織功政(57,897票)に圧勝した。これまで自民党議席を独占してきた「保守王国」の島根県、その1区で議席を失った。
 長崎3区は、派閥の裏金問題で谷川弥一代議士が辞職したことによる選挙であるが、ここでも立憲民主党山田勝彦が53,381票を獲得し、日本維新の会井上翔一朗(24,709票)に圧勝した。
 東京15区は、公職選挙法違反で有罪になり議員辞職した柿沢未途前法務副大臣の選挙区であるが、9人の候補が乱立する中で、やはり立憲民主党の酒井菜摘が49,476票を獲得して当選した。
 2位が無所属の須藤元気で29,669票、3位が維新の金沢結衣で28,461票、4位が諸派「日本保守党」の飯山陽で24,264票、5位が無所属で国民民主党都民ファーストの会が推薦する乙武洋匡で19,655票であった。
 以上のような結果をもたらした原因は、昨年秋以降に大きな問題となった自民党派閥のパーティ券問題である。自民党に対する批判が高まり、岸田首相は安倍派の幹部に対する厳しい処分などを行ったが、それもあまり評価されなかったようである。長崎3区と東京15区では候補者を立てることすらできず、不戦敗であった。
 3敗という結果に、自民党内では岸田首相では、選挙に勝てないのではないかという不安の声が、若手や中堅の間で広まっている。今は、岸田首相が衆議院を解散できるような状況ではない。秋の自民党総裁選でも、岸田が楽勝できるとはかぎらない。
 国会では、政治資金規正法の改正が焦点となるが、自民党案は野党案よりも規制が緩やかである。
乙武洋匡の屈辱的な敗北
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 東京15区補選では、小池の支援を受けた乙武洋匡が第5位という屈辱的な敗北を喫した。
 また、4月21に投開票が行われた目黒区長選挙でも、小池の支援する候補が敗退している。小池が応援すれば当選するという小池神話は崩壊した。
 乙武自民党公明党が支援して当選させ、それによって与党寄りの代議士を誕生させるという戦略は、乙武自民党の支援を拒否することによって成り立たなかった。自公も目論見が外れたし、小池も自民党に恩を売って、国政に復帰し、総理の座を狙うという野望が潰えた。
 小池については、「カイロ大学卒業」という学歴の詐称問題が、側近の暴露によって再燃し、それも小池の人気を翳らせる要因となった。この問題については、4月17日の本コラムで詳しく論じたが、私自身も彼女に騙されていたのである。
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参照)小池百合子はもう政界から引退しなさい…!  嘘にまみれたポピュリストは、東京都のみならず、日本国をも破綻させる(現代ビジネス 2024.04.17)
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 小池が嘘をついているのは学歴だけではない。パフォーマンス主導の政治で、公約は守らない、嘘を吹聴し、大衆を煽って自分の権力を拡大することばかりを考えている。そして、その衆愚政治を、マスコミが協力し、拡散するという度し難い愚行を続けてきている。
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 たとえば、築地から豊洲中央市場を移転させる問題である。小池は、2016年7月に都知事に就任すると、豊洲市場の安全性に疑義を呈し、同年11月7日に予定されていた築地から豊洲への移転を延期してしまった。
 私の在任中に、安全性確保のために必要な工事を行い、法律で定められている以上に何度も繰り返し安全性を確認したのである。そのような努力を積み重ねた上で、築地から豊洲へ移転する日を決めたのに、それを人気取りのデマゴーグが潰したのである。
 その手先となったマスコミの都庁番記者たちの不勉強、自分たちが世の中を動かしているという驕りは度し難い。かつては、都庁担当は登竜門で、優秀な若手が抜擢されていたが、今は、無能であっても誰でも適当に補充すればよいという感じだ。
 小池は、2017年6月20日には、「築地は守る、豊洲は生かす」と述べたが、現実はそうなってはいない。
 この4月19日に、東京都は、築地市場跡地の再開発事業者を、三井不動産、読売新聞、鹿島建設清水建設朝日新聞トヨタ自動車など11社から成るグループに決定したと発表した。「食のエリア」も作るというが、「築地は守る」ということになるのか。このような曖昧なスローガンを掲げ、どうでも言い抜けることのできるようにするのが小池の手法である。
 豊洲市場も、予定した活況にはほど遠い状況である。観光施設「千客万来」もやっとこの2月1日に開場したが、5年遅れである、この遅れも、小池が巻き起こした騒動の結果である。これらを金額にすると巨額に上るが、マスコミはその数字を可視化するような努力をしない。自分たちも小池の共犯者なので、報道の責任を果たすことができないのである。
 東京五輪も小池の衆愚政治に翻弄された。都知事の私は、森喜朗組織委員会会長と協力して、競技会場を埼玉県や千葉県の既存施設を活用するなどして、約2000億円の経費削減に成功した。ところが、組織委員会IOCと東京都で調査を繰り返して決定したことを覆そうと、ボート競技の会場を宮城県に移そうとするなど馬鹿げたパフォーマンスを繰り返した。
 このような愚行に呆れたIOCは、東京五輪のマラソン競歩の開催地を東京から札幌に変更した。IOCは、小池を完全に蚊帳の外に置いたのである。
 小池は公約など守らない。「情報公開は一丁目一番地」と言ったが、公開文書は黒塗りのままである。さらに、2016年7月の都知事選の選挙公報では、1)待機児童、2)介護離職、3)残業、4)都道電柱、5)満員電車、6)多摩格差、7)ペット殺処分をゼロにする「7つのゼロ」を掲げたが、実現したのは7)のみであった。
パンデミックさえも選挙に利用
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 2019年末に中国の武漢新型コロナウイルス感染症が発生し、日本にも伝播した。小池は、翌年の7月に都知事選を控えて、コロナを選挙キャンペーンに利用した。
 連日テレビに出てコロナ対策を説明すれば、それは最大の選挙運動となる。しかも、感染対策と称して、「三密」を理由に、街頭演説も、公開討論も、小池都知事は拒否した。そのため、4年間の小池都政を検証する機会が奪われたのみならず、「カイロ大学を首席で卒業した」という学歴詐称問題についても、他候補や有権者が問いただすことができなかったのである。
 コロナについては、小池が、オーバーシュート、ロックダウンと横文字を使い、危機感を煽ってしまたために、都内のスーパーでは商品が棚から消えた。この騒動のあおりを食らって、政府は、当初2020年3月末に予定していた緊急事態宣言を4月7日まで待つことになってしまった。小池は、感染症を防ぐことよりも、感染症を自分の選挙に利用するという許しがたい行為を続けたのである。
 最近では、都内の新築家屋に太陽光発電装置を設置することを義務化した。これは、まさにエネルギー問題の現実を知らない天下の愚策である。太陽光や風力は安定供給という点で問題があるし、安価ではない。
 また、太陽光発電は、パネルの取り付けのみならず、老朽化したパネルの除去にも大きなコストがかかり、大量な廃棄物が発生する。そのパネルは中国からの輸入である。太陽光発電用結晶シリコンの世界における中国のシェアは8割であり、その半分以上は新疆ウイグル自治区で生産されている。そのため、アメリカは、人権問題を理由にすでに禁輸措置を実行している。
 以上、幾つかの例を挙げたが、パフォーマンス中心の小池都政は、東京都の活力を低下させ、財政的にも大きな負担となっている。その手法を国政に持ち込ませれば、日本は没落する。
 小池は、嘘で固め、権力者に甘言で接近し、利用し尽くしたら捨てる。そして、権力のために、平気で虚言を弄し、公約も簡単に反故にし、大衆を扇動してきた。その危険な政治家の本質を見抜くことができず、褒めそやして衆愚政治の拡散を手伝った大手マスコミの責任も重い。
 小池は、異常な虚飾の政治家人生に終止符を打つべきときが来ている。目黒区長選、衆議院東京15区補選の結果は、鈍感な有権者ですら小池の巨大な闇に気づき始めたことの証左である。
舛添 要一(国際政治学者)