通常国会は6月23日の会期末まで、2か月余りだ。大型連休を控え、国会審議に一定の時間がかかることを考えれば、与党の議論を長引かせるわけにはいくまい。
与党協議に先立ち、岸田首相は党政治刷新本部に自民党案の取りまとめを指示した。だが、刷新本部は策定に消極的だ。公明の主張と隔たりが大きいためで、初回の協議には手ぶらで臨んだ。
自らの方針も決めずに、公明との一致点や落としどころをどう見つけるつもりなのか。今回の事件の当事者である自民が率先して改正案を提示するのが筋だろう。
一方、公明や野党が提案している改革の内容にも疑問が残る。
各党は、規正法違反で会計責任者の有罪が確定した場合、自動的に議員も罪に問われる仕組みを提案している。公職選挙法の連座制を念頭に置いている。
連座制は、買収などで秘書らが有罪となった場合、候補者の当選を無効とする規定だ。民主主義の根幹である選挙での不正は重大なため、厳しい措置としている。
他方、規正法違反は単純な記載漏れや記載ミスもあり得る。国民の代表を選ぶ選挙での不正行為と、政治活動中の資金の扱いに関する違反を同列に論ずることが、適切かどうか。
また、政党が議員に渡している政策活動費について、公明は使途の公開を求めているが、自民は慎重だ。立憲民主党は政策活動費そのものの廃止を主張している。
自民の政策活動費は、年10億円に上っている。国民の政治に対する厳しい目線を考えれば、使途の費目の公開は検討に値しよう。
立民はまた、企業・団体献金や、全ての政治資金パーティーを禁止するよう求めている。
自民の事件が発覚するまで、立民の議員もパーティーを当たり前のように開いていた。政治家が浄財を集める手段を禁じるというなら、どうやって必要な政治資金を確保するつもりなのか。
実現性を度外視し、自民の消極姿勢をあぶり出すことだけを狙ったかのような主張は、かえって問題を混乱させてしまう。政治改革を政局の駆け引きの道具に使うことは許されない。
裏金再発防止策 自民党案示さぬ無責任(2024年4月18日『東京新聞』-「社説」)
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、自民、公明両党が政治資金規正法改正に向けた実務者協議を始めた。大型連休明けに野党との協議に入り、6月23日までの今国会中に成立を図る。
しかし、自民党は規正法改正案を自ら示さず、公明党との協議で与党案を取りまとめるという。組織的、継続的な多額の裏金づくりの当事者が自らの考えを示さないのは無責任極まりない。
自民党総裁の岸田文雄首相は、今国会中の規正法改正実現を繰り返し言明し(1)議員本人への罰則強化(2)第三者による監査徹底(3)デジタル化による政治資金の透明化-を党内に指示していた。
抜本改革には程遠い内容だが、この程度の再発防止策すらまとめられないのであれば、政権担当能力を欠くと言わざるを得ない。
裏金事件を巡り、自民党は党内調査を行ったが、形ばかりにとどまった。衆参政治倫理審査会の開催には応じたものの、詳細な説明は避け、真相解明には至っていない。裏金づくりの経緯や実態が不明のまま、再発防止策を打ち出せるはずもあるまい。
自民党が自ら案を示せば、野党側が求める企業・団体献金や政治資金パーティーの全面禁止などの抜本改革に消極的姿勢が際立つという計算もあるのだろう。だとすれば、自浄能力の欠如を自ら認めるに等しく、裏金事件を反省していないと断じるほかない。
28日投開票の衆院3補選のうち自民党が候補者を擁立したのは島根1区にとどまるが、自民党候補のいない2選挙区でも最大の争点は「政治とカネ」だ。首相は「政治の信頼回復に向けた取り組みをしっかり訴えなければならない」と語るが、空虚に響く。
自公協議では、会計責任者にとどまらず議員本人も処罰の対象になる連座制の導入や、政策活動費の使途公開義務化など、公明党の主張を自民党が受け入れるかどうかが焦点になる。
「クリーンな政治」を掲げてきた公明党は厳しい姿勢で協議に臨むべきだ。妥協すれば、自民党と「同じ穴のムジナ」に見られることを覚悟せねばなるまい。
自民党は再発防止策の内容を公明党と野党各党との協議に委ね、その結果を受け入れてはどうか。深刻な政治不信の元凶となり、自党の案すら示せないのであれば、もはや口出しする資格などない。