一時保護中の通学 子の意思尊重する体制に(2024年4月18日『毎日新聞』-「社説」)

西日本にある児童相談所が管理する一時保護所の相部屋。夜は布団を敷いて子どもたちが眠る=2016年7月、黒田阿紗子撮影

西日本にある児童相談所が管理する一時保護所の相部屋。夜は布団を敷いて子どもたちが眠る=2016年7月、黒田阿紗子撮影

 児童相談所に一時保護されている小中学生の大半が、学校に通えていない。本人の意思を尊重する対応が求められる。

 虐待などで親元から離す一時保護は年約5万件に上る。長期化するケースもある。その間の学びの機会確保が課題となっている。

 毎日新聞は児相を持つ全国78自治体に調査した。一時保護が短期間だった子どもを除くと、2022年度に週4日以上通学していた小中学生は6%にとどまった。「通学ゼロ」も7自治体あった。

 本人に学校に行きたいかどうかの意向を原則確認していたのは、約3割の24自治体だけだった。確認していない自治体の方が、通学率が低い傾向があった。

 今月施行された改正児童福祉法で、一時保護やその後の措置を決める際、児相は本人から意見聴取することが義務付けられた。日本も批准する子どもの権利条約に「意見表明権の保障」が規定されていることを受けた対応だ。

 子どもにとって学校生活の意味は大きい。通学が精神的安定をもたらすとの声もある。

 国が新たに設けた一時保護施設の運営基準は、子どもが適切な教育を受けられるよう、児相に通学への支援を求めている。

 一時保護の目的は身の安全の確保だ。親による連れ去りなどを防ぐため一定の行動制限があるのはやむを得ない。ただ、本人が希望していても「送迎体制が整わない」「在籍校が遠い」といった理由で通学させない自治体が目立つ。

 通学率の高い自治体は、児相の職員がシフトを組んでタクシーで学校まで送迎したり、通学しやすい距離にある児童養護施設に一時保護を委託したりといった工夫をしている。

 国はこうした事例を参考に、送迎の人員確保への補助などの財政支援を講じてほしい。

 児相は「一時保護中は通学させられない」という固定観念を捨てるべきだ。子どもの希望がかなえられるよう、学校や一時保護を委託する児童養護施設、里親家庭との連携を強化する必要がある。

 岸田文雄政権は、子の利益を最優先する「こどもまんなか社会」の実現を掲げる。一時保護中であっても教育を受ける権利が妨げられない環境の整備が急務だ。