クマの人的被害対策 共生に向け「すみ分け」を(2024年4月11日『東奥日報』-「時論」/『茨城新聞・山陰中央新報』-「論説」)

 

 ヒグマやツキノワグマによる2023年度の人的被害が過去最多を記録するなど、生息地域の拡大が問題を引き起こしている。政府はこれらクマ類を鳥獣保護管理法に基づく「指定管理鳥獣」に今月中に追加、積極的な対応に乗り出す。この措置により都道府県による捕獲などの事業を国が補助できる。専門家との連携に加え、専門職員の確保も求められるだけに、環境省は豊富なメニューを用意し、予算や技術の面で自治体への支援を手厚くすべきだ。

 被害防止の基本は、人とクマの共生に向けた「すみ分け」の推進である。クマは九州を除く都道府県に広く生息。北海道のヒグマの頭数は30年間で倍以上となり、分布域も拡大。本州のツキノワグマも分布域が広がり、個体数は増加傾向にある。

 対策の前提として、地域ごとの生息頭数を正確に割り出すなど基礎的な調査をまず急ぎたい。被害増の要因として、クマの増加に加え、人口減少により中山間地域での人の活動が低下し、山林、里山の手入れが行き届かなくなったことが挙げられる。人家のすぐ近くまで見通しの利かない林になるなどクマに適した生息環境となり、人の生活圏に近づきやすくなったと分析できる。

 狩猟する人の減少により、「人間が怖い存在である」ことをクマが学ぶ機会も減った。この結果、木の実が凶作の年などは、人里で餌を求める「新世代クマ」「アーバンベア」たちの出没が目立つことになる。これをどう減らすかが被害をなくす鍵となる。

 対策としては、市街地や農地など「人の生活圏」に出没した個体の駆除・捕獲を進めることや、犬を使い追い払ったり麻酔銃で撃って捕獲したりして人への恐怖を学習させることが求められる。

 生活圏に近づかないよう、集落付近にある隠れ場所や移動ルートになりそうな辺りの草木を刈り払う。さらに餌となる手入れされない果樹の除去、電気柵の設置、食料ごみを屋外に置かないなどの予防策も重要である。

 次に、クマにとって良好な生息環境となる「保護優先地域」と、人の生活圏の間に「緩衝地帯」を設けてすみ分けを徹底する。緩衝地帯では木の伐採や捕獲などを通じてクマが出没しないように圧力をかけていく。一方、山菜採りや登山などで生息地域に入る場合は、不用意な遭遇を避けるため鈴を鳴らしたりラジオの音を大きくしたりして、できるだけ人の存在を知らせる自衛策の徹底が不可欠だ。

 クマ以外の指定管理鳥獣はニホンジカとイノシシで、地球温暖化から生息域が広がり、農業被害も続いている。貴重な高山植物を食べ荒らすなど影響も多様化し、これらを人が捕獲して生息数を管理するしかない。

 国はこの2種の個体数を23年度までに基準年(2011年度)より半減させる目標を掲げていた。イノシシは豚熱という病気の流行もあり減少してきた。しかしニホンジカの目標の達成は難しく、集中対策も必要だ。これを受け、国は目標の達成を28年度に先送りした。

 このほか国内では海外から持ち込まれた動植物による被害も目立ち、生態系を守るため駆除や管理の必要に迫られている。戦略的に取り組むためには手遅れになる前、予防的な対策も併せて充実させなければならない。