クマ被害防止策 生息実態の把握が重要(2024年3月10日『秋田魁新報』-「社説」)

 環境省は来月にもクマを「指定管理鳥獣」に追加する。2023年度のクマによる人的被害が全国で過去最多となったことを受けた措置だ。これによって、都道府県による捕獲などの事業が国の交付金の対象となる。人的被害を防ぎつつ、クマの生息実態の把握や生息環境改善にも力を入れ、人との共生を目指していきたい。

 県によると、23年度(先月末時点)の県内クマ目撃件数は3698件、人身被害は62件70人に上る。人身被害のうち53件は住宅地やその周辺で発生した。

 秋田市御所野の運送会社倉庫には先月6日にクマが入り込み、捕獲まで4日を要した。上小阿仁村の民家には同22日と25日にクマが侵入。本来なら冬眠しているはずの期間にも出没が相次ぐのは異常事態だ。

 今冬は積雪が少なく、クマが早く動き出す可能性がある。農作業中の人や登下校中の児童生徒らが遭遇しないよう例年以上に警戒を強める必要があろう。

 県内に生息するクマは20年春時点の推定で4400頭。その後、少しずつ増えたとみられるが、23年度は先月末までに2315頭を捕獲した。捕獲枠の1582頭を大きく上回ったものの、市街地などに頻繁に出没し、危険除去のための駆除が増えた事情を鑑みればやむを得まい。一方で、大量捕獲は特定地域の個体群を絶やすことにもつながりかねず、常態化させないための取り組みが急務だ。

 クマは既に指定管理鳥獣となっているニホンジカやイノシシに比べ、個体数が少なく繁殖力も低い。地域個体群を安定的に維持していくには十分な保護管理が求められる。まずはモニタリングで現時点での推定個体数を算出し、捕獲枠が適正かを見極める必要がある。経年的な動向も把握し、将来の推移を予測することも欠かせない。

 県は24年度から、5年ぶりに生息数調査を実施する方針だ。2年間かけ、山中の自動カメラでクマを撮影する「カメラトラップ法」で調べるという。集落周辺の冬眠穴も初めて調査し、クマの居着き状況を確認する。これらの結果を踏まえ、捕獲や人里近くにいる場合は追い払いなどの被害防止対策につなげてもらいたい。

 併せて、クマが人里に下りて来ないよう生息環境を改善する取り組みも求められる。23年度にクマが異常出没した要因の一つはブナの実の凶作とされる。2月県議会の代表質問で佐竹敬久知事は「針葉樹と広葉樹の混交林化に取り組んでいる」と述べた。木の実などを得られる恵み豊かな森をつくっていくことは重要だ。

 クマを人の生活圏に呼び寄せないよう、やぶの刈り払いを継続的に実施する態勢づくりも不可欠だろう。指定管理鳥獣への追加を機に、電気柵の設置や果樹の管理などの対策も本格化させ、野生動物と人間のすみ分けを進めたい。